エーゲ海のある都市の物語:アイギナ(3):アイギナ植民


神話によればアイアコスはアイギナの初代の王でした。そしてアイギナの国民(というか都市国家なので市民とも呼ぶことも出来ます)はといいますと、ゼウスがアイアコスのために島にいる蟻を人間に変身させて国民にしたのでした。ギリシア語で蟻のことをミュルメクスと呼ぶので、彼らはミュルミドン族と呼ばれました。さてその後の物語は、アイアコスの息子たち、つまりテラモンとペレウスがもう一人の息子ポーコスを殺すというふうに進みます。そのことを知ったアイアコスは怒ってテラモンとペレウスをアイギナ島から追放してしまいます。テラモンは隣の島であるサラミス島に移り、ペレウスはもっと遠くのプティアというところへ移ります。テラモンのその後やペレウスのその後についても物語が伝わっており、特にペレウスは女神テティスと結婚して英雄アキレウスを息子に持ち、そのアキレウストロイア戦争ギリシア軍の第一の勇士として活躍することになります。一方、テラモンの息子のアイアスもトロイア戦争アキレウスに次ぐ勇士として活躍します。(トロイア戦争ギリシア方にはもう一人アイアスが登場しますので、その人物と区別して大アイアスと呼びます。) このアイアコスの子孫たちはアイアキダイと呼ばれています。
ところが、息子たちがいなくなってしまってからアイギナがどうなったかについては話が伝わっていません。アイアコスが死んだときに誰がアイギナの王位を継いだのかも分かりません。アイギナの物語を書こうとする私にとっては困った話です。そこで別の伝承を調べてみました。


ヘロドトスによればアイギナはエピダウロスからの植民で、その住民はドーリス系であるといいます。ではエピダウロスはといいますと元々イオニア人の町だったのですが、アルゴスから来たドーリス人たちによって占拠されたのでした。このあたりの話を紹介します。

ヘラクレスの後裔がドーリス人を率いてペロポネソス半島に侵入した時(彼らの言い分では帰還した時)、大将の一人テメノスはくじでアルゴスを引き当て、アルゴスを支配することになりました。彼は同じヘラクレスの子孫であるデイポンテスを実の息子たちよりも目をかけて自分の娘ヒュルネトと結婚させたので、息子たちはアルゴスの王位がデイポンテスに継承されるのではないかと恐れて、父親のテメノスを殺してしまいました。しかし、アルゴス市民もデイポンテスの王位継承を支持したので、テメノスの息子たちの王位奪取は失敗しました。彼らは国外に亡命すると国外の勢力の助けを借りてアルゴスを攻め、デイポンテスをアルゴスから追い出しました。代わって亡命者となったデイポンテスは東隣のエピダウロスに遁れました。当時のエピダウロス王ピテュレウスは、理由はよく分からないのですが、その後王位をデイポンテスに譲り、自分は人民とともにアテナイに移住しました。こうしてエピダウロスはドーリス人の町になったのでした。それまでこの町はイオニア人の町だったのでした。この時ピテュレウスの息子プロクレスは一部の住民を率いてエーゲ海の東側にあるサモス島に植民しました。
その後エピダウロスはアイギナ島を領有するようになりました。私が推測するにそれ以前はアイギナ島にはイオニア人が住んでいたのを追い出したのではないかと思います。やがてアイギナ島では船を多数建造するようになり、アイギナ島は貿易で栄えるようになりました。するとそこの住民はエピダウロスの政府に従うことを嫌い、独自に行動するようになり、やがてエピダウロスから独立したのでした。アイギナは海運貿易で財を成した貴族階級が政権を運営するようになりました。