世界悪女物語
- 作者: 澁澤龍彦
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 1982/12
- メディア: 文庫
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またまた古い本で恐縮です。初出は1964年のようです。私は澁澤龍彦のファンというわけではなく、この本を買ったのはこの中に出てくる「フレデゴントとブリュヌオー」が、「ニーベルンゲンの歌」に出てくるブリュンヒルドの話の元ネタだと直感したからで、そのような資料は珍しいので買ってしまったのでした。「フレデゴントとブリュヌオー」、この「ブリュヌオー」のほうがブリュンヒルドです。意外に思ったのは、このコテコテのゲルマン伝説の本ネタの舞台が今でいうフランスだったということでした。フランスなので、名前もフランス語風に「ブリュヌオー」となっています。当時、「ブルンヒルド」か「ブリュヌオー」か、どのように彼女が呼ばれていたのかはわかりませんが・・・・。
トゥールの司教グレゴリウスによって6世紀の末に書かれた史書『フランク人の歴史』には、そのころヨーロッパに覇権を争っていたメロヴィング朝の王室の、骨肉相食む血なまぐさい戦いの模様が克明に描かれていて、一読、肌に粟を生ずるばかりの凄惨さである。そして、この激しい争いの主役は、アウストラシア王シジュベールの妃ブリュヌオーと、ネウストリア王シルペリクの妃フレデゴンドという二人の女性であった。・・・・・
「アウストラシア」とか「ネウストリア」とか聞きなれない国名ですが、Wikipediaによれば以下の領域のことを言っているようです。
この時代のこの地方の話はなかなか本に載っていません。かいつまんで話をしますと、
- アウストラシア王シジュベール(=シギベルト)は西ゴート(スペイン)の王女ブリュヌオーを娶った。シジュベールの弟でネウストリア王のシルペリク(=キルペルク)はそれに対抗してブリュヌオーの姉のガルスウィントを妃に迎えた。しかし、シルペリクの侍女で愛人のフレデゴントが差し向けた男がガルスウィントを殺してしまう。フレデゴントはシルペリクの王妃となった。
- ブリュヌオーは姉の「血の復讐」を宣言、夫をせっついてネウストリアに侵攻させ、自分も軍に参加する。シルペリクとフレデゴントは包囲されるが、フレデゴントが差し向けた2人の刺客がシジュベールを暗殺、刺客2人もその場で殺された。これで形勢逆転、今度は、ブリュヌオーがパリでネウストリア軍に包囲される。ところがシルペリクは妻のフレデゴントが最近うとましくなって、あわよくばブリュヌオーと結婚しようと、余計なことを考えたのがいけなかった。
- シルペリクはブリュヌオーをフレデゴントの目の届かないところに監禁しようとしたが、シルペリクの息子メロヴェがブリュヌオーに恋してしまう。メロヴェとブリュヌオーが手を携えて逃亡。しかしブリュヌオーはメロヴェをも捨ててさらに逃亡。父親に捕えられたメロヴェは絶望して自殺する。
- 以後、フレデゴントは邪魔者を殺しまくり、夫のシルペリクも殺してしまう。しかしブリュヌオーを倒すことが出来ないまま病死する。
- ブリュヌオーはフレデゴントの息子のクロテール2世に攻撃目標を変え、延々と17年、戦いを続けたが、80歳の時にクロテールに捕えられ、残酷な仕方で殺される。
この頃のフランスは、優雅のかけらもありません。ゲルマンの荒々しさに満ちています。