2017-01-01から1年間の記事一覧

アイオリス人の植民

「エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(3):アイオリス人の到来」を書く前に見ておけばよかったという記事を英語版のWikipediaの「First Greek colonisation(第一次ギリシア人植民)」の記事の中に見つけました。以下はその拙訳です。 アイオリス人…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(23):最終回

アレクサンドロス大王が後継者を指名せずに若くして亡くなると、大王の部下たちが自分こそはアレクサンドロスの後継者と名乗って争い、大王の帝国は分裂し互いに侵攻を繰り返す、いわゆるヘレニズム時代になるのですが、その間にミュティレネがどの国の支配…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(22):アリストテレスとテオプラストス(2)

さて、アリストテレスとテオプラストスがミュティレネにやってきた経緯はといいますと・・・・まず、BC 347年に師のプラトンが死去します。するとアリストテレスはアカデメイアを飛び出し、アテナイ市内からも飛び出して、小アジアにあるアッソスへ移住して…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(21):アリストテレスとテオプラストス(1)

BC 427年のミュティレネの降伏ののち、もうそのあとには、ミュティレネが中心となるような事柄は起らなかったようです。それでもミュティレネは背景としてはまだ歴史に登場します。さて話はミュティレネの降伏から82年後のBC 345年まで下ります。その年、2…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(20):ミュティレネの反乱(3)

反乱勃発の翌年BC 427年の夏、スパルタはアルキダス率いる40隻の艦隊をミュティレネへと送り、それと並行してアッティカ*1に侵攻し、その地を荒らし回りました。しかしこのミュティレネへ向う艦隊は、途中の航路で難渋してしまい、時機を逸してしまいました…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(19):ミュティレネの反乱(2)

この動きに対し、最初アテナイは何とか外交交渉によってデロス同盟離脱を思いとどまらせようとしました。というのは、現在アテナイはスパルタと戦争中であり、さらに悪いことには一昨年より疫病がアテナイ市内を襲っていたため、軍事行動の余力がないと考え…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(18):ミュティレネの反乱(1)

BC 479年のミュカレの戦いはペルシアによるギリシア征服の企てを最終的にあきらめさせましたが、その48年後、アテナイを中心とするデロス同盟と、スパルタを中心とするペロポネソス同盟は戦争に突入しました。後世、ペロポネソス戦争と呼ばれる戦争で、全ギ…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(17):ヘラニコス

ミュティレネ生れの歴史家ヘラニコスは、ミュカレの戦いの時10歳ぐらいでした。ですのでヘラニコスはミュカレの戦いのことを同時代の出来事として経験したことでしょう。そしてその後のデロス同盟結成とそれに自分の町が参加したことを知り、やがてアテナイ…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(16):デロス同盟

ミュティレネの人々にとってミュカレの戦いは印象的だったことだと思います。そしてギリシア連合海軍を率いるスパルタ王レオテュキデスの名前も記憶に残ったのではないかと想像します。 しかし、歴史の流れはこれ以降、スパルタではなく、アテナイの隆盛・覇…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(15):ペルシア戦争

ペルシア王ダレイオスは、イオニアの反乱にギリシアのアテナイとエレトリアが加担したことを口実に、ギリシア本土に攻め込むことを決意しました。のちに第一次ペルシア戦争と呼ばれるこの時のペルシア軍の侵攻にはミュティレネの海軍も従軍を命じられたと想…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(14):イオニアの反乱

イオニアの反乱は5年続きました。途中で反乱の首謀者だったミレトスの僭主アリスタゴラスが逃亡する、という事件もありました。アリスタゴラスの従兄弟で舅でもあったミレトス人ヒスティアイオスは反乱発生時にはペルシアの首都スサにいたのですが、そこか…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(13):コエス

3代目のダレイオス1世の治世の頃にはペルシア王国はバビロニアとエジプトを含む巨大な帝国に成長していました。ペルシア支配下のイオニア、アイオリスの町々はペルシアの軍事行動に兵を提供しなければなりませんでした。さてBC513年のこと、ダレイオスはス…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(12):ペルシアへの服属

ところでこのサルディスの陥落を、ミュティレネは最初、それほどの事件とは思っていなかったようです。しかし、やがて小アジア全体がペルシアに服属するようになると、自発的にペルシアに服属を誓うことになりました。この様子を見ていきます。 サルディスの…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(11):シゲイオンのゆくえ

さて、アテナイがシゲイオンを占領したために、ミュティレネは近くのアキレイオンに植民市を建て、そこに軍を置いて、アテナイ勢との小競り合いを続けていました。ところで、このアキレイオンというところは、ここにトロイア戦争でのギリシア側の英雄だった…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(10):アルカイオス

サッポーより10歳程度年下なのが詩人のアルカイオスでした。この人の詩も今まで読んだことがなかったのですが、今回、調べたところどうも「荒々しい」詩のようです。 アルカイオスの戦争と政治体験は現存する詩の中に反映されていて、その中でも断然多いのが…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(9):オルペウスの竪琴

サッポーまで話を進めたのに、歴史時代からまた神話伝説の時代に戻ってしまうのですが、ここでオルペウスとレスボス島にまつわる伝説を紹介したいと思います。なぜレスボス島には芸術家が輩出するのか、といういわれを説く話です。ミュティレネにはサッポー…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(8):サッポー

(左:ローレンス・アルマ=タデマ画 『サッポーとアルカイオス』の部分) ピッタコスより10歳程度年下であったのが詩人のサッポー(サッフォーとも呼ばれます)でした。サッポーは古代ギリシアの有名な詩人の一人で、のちの時代のことですが、哲学者のプラ…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(7):ピッタコス

ミュティレネの王位を独占していたペンティリダイ一族はやがて勢力が衰え、BC 7世紀頃には他の貴族たちと抗争するようになったようです。ペンティリダイについてはなかなか情報がないのですが、アリストテレスの政治学に断片的にある以下のような記述は、背…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(6):ペンティリダイ(ペンティロスの子孫)

次に述べなければならないのは古代ギリシア史において現在では暗黒時代と呼ばれている資料のない時代です。この時代の出来事を私は何とか述べたいと思うのですが、なかなか手がかりが見つかりません。例えばミュティレネは小アジアとは海を隔てていますので…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(5):ヘレスポントスの確保

さて、アルゴ号の出航という幸福な場面でこの物語から離れ、レスボス島やその東岸にあるミュティレネに戻りましょう。 前にもお話ししましたように、伝説によればアルゴ号はレスボス島にはやってきませんでした。レスボス島と名前の似たレムノス島には寄航す…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(4):アルゴー号の冒険

アルゴー号の冒険の物語の基本的な構造は、娯楽物語の王道を押さえています。つまり、イアーソーンという男が、この世の果て(当時のギリシア人にしてみたら黒海東岸のコルキスはこの世の果てと感じたことでしょう)にあるという宝物を手に入れるため、仲間…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(3):アイオリス人の到来

ミュティレネのあるレスボス島は、トロイア戦争の頃はギリシア人が住んでいないようでした。では、ギリシア人がレスボス島にやってきた時の様子が何か伝承に残っているでしょうか? 高津春繁の「ギリシア・ローマ神話辞典」で調べたところ、断片的で異説の多…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(2):トロイア戦争の頃

まずギリシアの文学の最古のものとされているホメロスの叙事詩、イーリアスとオデュッセイアーから検討していきましょう。これらの叙事詩にはミュティレネの名前は登場しなかったと思います。では、もう少し範囲を拡げて「レスボス島」が登場するかどうかを…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(1)

ミュティレネ(現代の発音ではミティリーニ)は、エーゲ海に浮かぶ島レスボスの都市で、古代ギリシアの時代にもこの島のすでに主要な都市でした。 紀元2世紀頃のローマ帝国の時代の小説「ダフニスとクロエー」の冒頭にはミュティレネの町の叙述があります。 …

古代ギリシアの旅

古代ギリシアの旅―創造の源をたずねて (岩波新書)作者: 高野義郎出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2002/04/19メディア: 新書 クリック: 3回この商品を含むブログ (4件) を見るこの本は、素粒子物理の専門家がギリシアの遺跡を訪ねて紹介するという異色の本…

ミレトスに関する追記

古代ギリシアの旅―創造の源をたずねて (岩波新書)作者: 高野義郎出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2002/04/19メディア: 新書 クリック: 3回この商品を含むブログ (4件) を見るこの本を読んでいたら、ミレトスについて重要な記述があったので引用します。 と…

マカレウス(ヘリオスの子の)

これは英語版WikipediaのMacareus (son of Helios)の訳です。 ギリシア神話では、マカレウスはヘリアダイ(ヘリオスの子ら)の一人で、ヘリオスとロードスの息子である。マカレウスとその兄のトリオパス、アクチス、カンダルスは5番目の弟テナゲスの技術の…

エーゲ海のある都市の物語:ミレトス(書き残したこと2):ディデュマ(2)

このディデュマの神託に関する逸話をヘロドトスは伝えています。キュメという都市が中心の話なので、この「エーゲ海のある都市の物語:ミレトス」では取り上げなかったのですが、ディデュマがミレトスの領土内にあることから、ミレトスの話として取り上げて…

エーゲ海のある都市の物語:ミレトス(書き残したこと2):ディデュマ(1)

ディデュマのアポロンの神殿の遺跡 「(17):サルディスへ」で、私は以下のようなことを書きました。 ヘカタイオスは、ならば、どうしても反乱を起すというのであれば、と、別の案を述べました。ミレトスが戦う上では制海権を掌握することが重要である。…

エーゲ海のある都市の物語:ミレトス(書き残したこと):レラントス戦争

英語版のミレトスの項目に、「ミレトスはBC8世紀のレラントス戦争に巻き込まれた都市のひとつであった。Miletus was one of the cities involved in the Lelantine War of the 8th century BC.」という記述があるのをあとで見付けました。これは「(2):ミ…