神統記 ヘシオドス
- 作者: ヘシオドス,廣川洋一
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1984/01/17
- メディア: 文庫
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武骨な感じがして敬遠していたヘシオドスでしたが、今回、読んでみておもしろかったです。ギリシアの神々がどのようにして生まれ、この宇宙がどう成立したかについての物語ですが、中心になっているのは3代に渡る、父と息子の葛藤です。読んでみて、フロイトのいう「エディプス・コンプレックス」を連想しました。そういえば「エディプス」という言葉自体、ギリシア神話に登場する英雄オイディップスに由来しますね。もともとギリシア神話世界はエディプス・コンプレックスの濃度が高いのでしょう。
まず、天(ウラノス)と大地(ガイア)が結婚して多くの子供を儲けますが、その中には恐ろしい子供たちがいてウラノスはその子供たちを幽閉します。ガイアはそれに憤り、子供たちにウラノスに復讐するようにそそのかします。これに応えたのがクロノスという子供で、ガイアの計略に従って、ウラノスの大切なところを鎌で切ってしまいます。(うわあ、エディプス・コンプレックス!)
広い大地は心に大いに悦び 彼を待ち伏せの場所につけて隠した そしてするどい歯のついた大鎌を 手渡し 密計をすっかり打ち明けられた。 さて大いなる天(ウラノス)が夜を率いてやって来た。 そして大地(ガイア)の傍らに身をのばし その上全体に長々とおおいかぶさった 情愛を求めながら。 そこで息子は 待ち伏せの場から左手をのばし 右手にはするどい歯のついた大きな長い鎌を執って すばやくわが父の陰部を刈り取り 背後に投げつければ それは後ろへとんでいった。
ところが今度はクロノスに同じ運命がふりかかってきます。彼は自分の息子に倒される、という予言をウラノスとガイアから聞いたのです。そこでクロノスは妻レイアが自分の子を産むやいなやすぐに飲み込んでしまう、という行動に出ました。今度はレイアがこれを怨みに思います。レイアがゼウスを産んだ時に、彼女はゼウスの代わりに石に産着をつけてクロノスに差し出し、ガイアがひそかにゼウスを洞窟に隠したのでした。
彼(クロノス)は それを 手で掴みとると 腹のなかに 詰めこんだ。 惨めにも 心にいささかも気づかなかったのである 石が(ゼウスの)身代りとなり 己が息子は 撃ちたおされも煩わされもしないで あとに残され この者は まもなく彼を力と腕力で打ち拉いで 王位から追放し 代わってほかならぬこの者が不死の神々の間に 君臨するであろうことを
ゼウスは予言どおりクロノスとその仲間の軍勢に勝利し、神々の王になります。今度はゼウスに同じ予言がふりかかります。ゼウスの妻(ゼウスには妻が何人もいるのですが)の一人「賢い」メティスが産む息子がゼウスを打ち負かすことになっていました。そこでゼウスはメティスを飲み込んでしまいます。
というのも、彼女(メティス)から 並外れて賢い子供らが生まれる定めになっていたからだ。 すなわち はじめに 輝く眼もつトリトゲネイア(アテナ) つまり 父親に劣らぬ気性と賢い思慮を備えた娘御を そのつぎには 傲慢な心もつ息子を 神々と人間どもの王として 生むことになっていた。 ところが その前に ゼウスは 彼女を己れの腹に納めてしまわれたのだ この女神が 彼に 善きこと 悪しきことを助言してくれるように と。
これが3代に渡る父と息子の葛藤の、神話における解決でした。この策によってゼウスは永遠の支配権を得たのです。
しかし、何でギリシアでは父親はこんなに執拗に息子を怖れるのだろう・・・・。