横浜の時を旅する(ホテルニューグランドの魔法)

横浜の時を旅する (ホテルニューグランドの魔法)

横浜の時を旅する (ホテルニューグランドの魔法)


2年間だけ横浜市民だったことがある。もっとも、住んでいたのは横浜市といっても中心からはかなり外れていたけれど。そのため横浜には愛着がある。愛着があるわりには横浜の(中心部の)歴史を知らない。この本はホテルニューグランドを軸に開港から今に至るまでのさまざまな逸話を集めた肩のこらない楽しい読み物だ。

http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/8/8a/Hotel_New_Grand_Yokohama_2009.jpg
だいたい私はこの本を読むまで、ホテルニューグランドがどの建物なのかも意識していなかった。読み始めて、はじめて、ああこの建物は山下公園から中華街に向かう時に見えるあのしゃれた建物、と思い当たった。
そして、このホテルが老舗のホテルであり、内部がとてもシックな作りであることなどは、全然知らなかった。



このホテルは、三谷幸喜の映画「The 有頂天ホテル」など、さまざまな映画、テレビドラマの撮影に使われたとのこと。

震災で横浜の多くのホテルが倒壊したのを受け、横浜市の復興計画の一環として建設され、当初は今日で言う第三セクターとして発足した。1927年現在と同じ渡辺仁の設計による開業時からの建築は本館として現存しており、クラシックホテルの代表例として名高い。

開業時から、チャーリー・チャップリン(映画監督)やジョージ・ハーマン・ルース(メジャーリーグ選手)といったスター、皇室や英国王室といった賓客が数多く訪れている。また、1945年に来日直後のマッカーサーが滞在したことでも知られている。マッカーサー第二次世界大戦前、新婚旅行でもこのホテルに滞在している。


ホテルニューグランド―Wikipedia

このホテルは関東大震災からの横浜市の復興計画の一環として市民のお金も集めて建てられたとのこと。横浜という町を語るのにこのホテルの視点を借りるのは、それなりの理由があるわけだ。アメリカ占領下では米軍に接収され、しばらくマッカーサーがここに滞在した。その話も登場する。



しかしそのような表舞台の話だけでなく、一般の人の物語もそれぞれ興味深い。たとえばある結婚披露宴に老齢の白人女性が参加していて、宴がひらけてからも、ずっと窓から外を眺めていたことがあったという。そこでホテルマンが、何を見ているのですか、と尋ねると日本語で「氷川丸。昔あれでアメリカに帰ったの。戦争が始まったから・・・」とそこまで話して涙を見せたという。そこにどのような事情があったのかこの本ではそれ以上は追求されていないのだが、そのようにそこかしこの場所にいろいろな人のいろいろな物語がひそんでいるということ、それはある意味、考えてみればあたりまえのことであるが、そのような無数の物語の存在を(どのような物語であるかは知らないにしても)感じながら風景を見るということを、この本は思い出させてくれた。