エーゲ海のある都市の物語:デロス島(1)
今まで「エーゲ海のある都市の物語」は、小アジアのミレトスとハリカルナッソス、レスボス島のミュティレネの3つの古代都市について書いてきたのですが、「エーゲ海」と書きながら、その東側に片寄っていました。そこでエーゲ海のど真ん中の都市を取り上げたいと思って、アポロン神の聖地として有名なデロス島のことを書こうと思います。
ここは、現在、古代ギリシアからヘレニズム時代の遺跡が多数残っている世界遺産です。古代ローマの詩人ヴェルギリウスの長編叙事詩「アエネーイス」にも神話時代のデロス島が登場します。
海のさなかに人々のおそれ尊ぶ地*1があって、
海のニンフを生む母と、エーゲの海の海神のネプトゥーヌスとに愛せられ、
かつてこの地があちこちの岸をめぐって漂流をしていたときに
弓を持つ神アポローンが謝意こめて、
ギュアロス島とミュコノスの島にこの地をくくりつけ、
不動の地位にそれをおき、吹く風々の意のままにならないようにさせたもの。
ここへわたし*2は船着ける。
島はこよなくおだやかに、つかれたわれらを安全な、港に迎えてくれました。
陸にあがってわれわれは、アポローンの都へと赴き敬意を表します。
島の人らの王であり、アポローンの司祭をもかねる王のアニウスは、
額に花綵の飾りつけ、月桂の樹を鬢に帯び、われらの方へかけつけて、
アンキーセス*3にその古い友を見出し、
われわれは右手をたがいに握りあい、その宮殿にはいります。
ヴェルギリウス「アエネーイス」 第3巻 75行付近 訳者は泉井久之助
- 作者: ウェルギリウス,泉井久之助
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かつて「海のさなかに人々のおそれ尊ぶ地」デロス島がありました。今もその島はあるのですが、もう「人々のおそれ尊ぶ地」ではなくなっています。「かつてこの地があちこちの岸をめぐって漂流をしていたときに」というのは、デロス島が太古には海に漂う浮島だった、という神話を踏まえています。この島でアポロンが誕生したことにより、アポロンによってデロス島は今の位置に固定されたのでした。