「ラビュリントイオ・ポトニア」のためのメモ
- 作者: 斎藤英喜
- 出版社/メーカー: 新人物往来社
- 発売日: 2012/05/12
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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先に触れたように、松江に着任した(ラフカディオ)ハーン(=小泉八雲)は、その二週間後には、出雲大社に参拝し、外国人としてはじめて神殿のなかに上がるという体験をしている。そのとき彼は、当時の出雲国造である千家尊紀(たかのり)と対面し、神道に関する話を聞くのだが、ハーンは尊紀の風貌に「古代ギリシアの秘儀を司る神官」のイメージを感じ取ったことが、その珠玉のエッセイ「杵築―日本最古の神社」に述べられている(『神々の国の首都』)。原文の「hierophant」の意味は、古代ギリシアの「エレウシスの秘儀を司る最高神官」のことを意味した(遠田勝「修辞としてのギリシア」)。エレウシスの神官とは、人の生死の秘密を知り、その再生の秘儀を司るもの。彼が祭るのは死後の世界、地下の暗黒の象徴デメテルやペルセポネ*1女神であった。
どうやらハーンは、出雲大社に死後の神を祭る神殿のイメージを感じ取ったようだ。そのときハーンは、奇しくも国家神道の側が排除した出雲派のオホクニヌシ、さらに遡れば近世末の平田篤胤の霊学を受け継ぐことになったのである(原武史『<出雲>という思想』)。
以前、私が調べていたラビュリントイオ・ポトニアが、思いがけず時空を超えてこの日本の出雲に現れた・・・・と空想が拡がりました。
ところで出雲神話にはもちろんデメテルとペルセポネは登場しませんが、同じように生死にかかわるところで登場する二柱の女神がいます。古事記ではそれをキサガイヒメとウムガイヒメと呼んでいます。登場するのは、オホクニヌシの神が兄たちに迫害され、一旦、死んでしまったところです。
そもそもなんでオホクニヌシが兄神たちから迫害されたかというと、兄弟全員で因幡(いなば)の国のヤガミヒメに求婚したのですが、ヤガミヒメの心を得たのはオホクニヌシだけだったからです。そこで兄神たちが怒ってオホクニヌシを殺そうと相談し、伯耆(ほうき)の国の山にオホクニヌシを連れて行き「この山には赤いイノシシがいる。おれたちが上から追い出すからおまえは下で待っていて捕えろ。」と言いました。そして、兄神たちは山の上のほうからイノシシに似ている大きな石を火で焼いて、転がし落としました。その焼けた石をイノシシだと思ってオホクニヌシは抱きしめたところ、オホクニヌシは焼け死んだのでした。
それを知った母の神は悲しんで、天に昇っていきカミムスビの神のところへ行ってこのことを訴えました。するとカミムスビの神はキサガイヒメとウムガイヒメをオホクニヌシのもとに遣わしました。この二柱の女神たちがオホクニヌシを生き返らせました。そこでキサガイヒメは赤貝の汁をしぼってウムガイヒメがそれを受け入れてこれを母乳に見立ててオホクニヌシの身体に塗ったところ、オホクニヌシは以前よりも男前になって立ち上がりました。
これが古事記でキサガイヒメとウムガイヒメが登場する場面です。キサガイは赤貝、ウムガイはハマグリのことだそうです。
*1:強調は私