中世シチリア王国

中世シチリア王国 (講談社現代新書)

中世シチリア王国 (講談社現代新書)

私にとってのヨーロッパ史の魅力は、ナショナリズムを突き崩すようなその歴史にあります。私にはヨーロッパ史帝国主義民族主義の2つの力によって織り成されているように思えます。帝国主義といっても近代のそれではなく、皇帝が複数の民族の上に君臨するという意味です。ナショナリズムを突き崩すような、と言っているのは、この帝国主義に関連しています。この中世シチリア王国シチリア島イタリア半島の南部を領域とする)は帝国というには小さいかもしれませんが、イタリア人、ギリシア人、アラブ人、ノルマン人、ユダヤ人という雑多な民族からなる王国は、日本の単線的な歴史になれた私の思い込みを崩すのに有効です。
話は上とそれますが、以下、引用したいので引用します。

さまざまな顔を持つパレルモは、何度訪れても飽きることのない不思議な魅力をたたえている。映画界の巨匠ヴィスコンティも、その魅力にとりつかれた一人にちがいない。彼の作品「山猫」は、シチリアの貴族社会を描いたランペドーサの同名の小説をもとにして作られたものだが、その有名な舞踏会のシーンは、パレルモ近郊の館で撮影された。サリーナ公爵を演じたバート・ランカスターが、白い衣装に包まれて輝くばかりに美しい、新興ブルジョワジーの娘アンジェリカ役のクラウディア・カルディナーレとワルツを踊るシーンは、パレルモが持つもう一つ別の顔を象徴している。
 その舞踏会の場面にはバジーレ教授(注:この本の著者の友人)の一族や知人たちが数多く出演していたという。当時少年だった彼は、眼鏡をかけていたためにはずされたそうだ。ヴィスコンティが描いたシチリア貴族の社会は、今もパレルモの上流社会のサークルとして生きている。生まれてから今までバスに乗ったことがないというバジーレ教授によれば、この大きいとは言えないパレルモの町の中でも、彼やその友人たちは、自分が属しているグループ外の人々と言葉を交わすことはほとんどないという。同じ空間を共有していながら、接触することなく別の世界に生きているのだ。

ランペドーサ描く「山猫」は、イタリア統一戦争前後のシチリアですが、サリーナ公爵はブルボン家両シチリア王国につかえる立場にあり、両シチリア王国はさかのぼれば、この本が紹介する中世シチリア王国ノルマン朝)に起源があるのを思い出しました。