Factory PhysicsはパートⅠ歴史の教訓、パートⅡファクトリ フィジクス、パートⅢ実践における諸原理、の3つのパートに分かれています。それぞれの概要を以下に示します。
パートI、歴史の教訓
- 第1章 アメリカの製造業では、アメリカにおける産業革命以降の製造業と経営の歴史を概観する。特に20世紀初頭のテーラーの科学的管理が紹介されるが、それについては科学的根拠はあまりなかったと批判している。
- 第2章 在庫制御:EOQからROPまででは真に科学的な管理の始まりとしてEOQ(最適発注量)モデルを取り上げ、その後あらわれた他の在庫モデルについても紹介する。ここから引き出される洞察は、その後の諸章の基礎となる。
- 第3章 MRP十字軍ではMRP(Material Requirement Planning 材料所要計画)のロジックが紹介される。MRPはプッシュ・システムであると指摘する。さらにその発展であるMRP−ⅡとERPについて検討する。MRPは(MRP−Ⅱも)その利点にもかかわらず、そのよって立つ根本的な仮定(無限キャパシティと固定リードタイム)に問題があると指摘する。
- 第4章 JIT革命ではMRPと対照的なプル・システムであるJIT(トヨタ生産方式、かんばん)について検討を加える。そこから以下の教訓を引き出している。生産環境を変更可能なものとして見ること。WIP制御の重要性。JIT運用には柔軟性が必要。品質がスループットに優先すること。継続的改善の重要性。
- 第5章 うまくいかなかったことでは以上の諸章のまとめを述べる。
パートⅡ、ファクトリ フィジクス
この本の中核となる諸概念を示す。特にいくつかの章では、結論を法則としてまとめている。
- 第6章 製造の科学では製造の科学の必要性を説いている。方法としてシステム分析を説明し、製造システムのモデルの必要性を示している。
- 第7章 基本工場力学では重要な法則としてリトルの法則を取り上げている。そして、WIP・スループット・サイクルタイムの間の関係のモデルとしてベストケース、ワーストケース、現実的なワーストケースのモデルを提示している。
- 第8章 変動の基礎では製造システムにおける様々な変動の影響を扱う。そのための理論的な考察が示される。この章で中心的な役割をはたすのは待ち行列理論、特にKingmanの近似式とその拡張である。この章での考察が、第9章で示される諸法則の前提となる。
- 第9章 変動の悪影響では第8章での考察を基礎にして変動に関するいろいろな法則が紹介される。
- 第10章 プッシュ製造システムとプル製造システムではプル製造システムの本質を、WIP上限を確立し不必要なWIPの生産を防ぐことにある、と説明する。
- 第11章 オペレーション管理における人間的要素では、人間の振る舞いの最も基本的な傾向のうち、工場の運営に著しく影響を及ぼすいくつかの傾向を述べる。ここでも結論は法則の形で書かれている。
- 第12章 総合品質生産では品質とオペレーションが互いに相手をサポートする関係にあることを示す。よい品質はよい工場運用を支援し、よい工場運用は逆に品質向上を支援する。
パートⅢ、実践における諸原理
生産工場を稼動させる際に遭遇する一般的な問題の解決のための様々な方法を、パートIの教訓とパートIIの法則を適用することにより検討する。下はショップ・フロア・コントロールから上は長期計画までの階層的システムの諸階層に渡っての計画と制御の整合を扱う。ハウツーを示すものではなく、パートIIの一般的概念の適用例を示すことが主眼である。
- 第13章 プル計画の枠組みではそのような諸階層の提案がなされる。また、最上位層である需要の予測のテクニックについて説明する。
- 第14章 ショップ・フロア・コントロールでは主にCONWIPの説明をする。
- 第15章 製造スケジューリングではその上のスケジューリングの階層の機能について述べる。キャパシティを考慮したMRP(MRP−C)のアルゴリズムを紹介する。
- 第16章 総体と工数の計画(aggregate and workforce planning)では、LP(線形プログラミング)による計画作成を説明する。
- 第17章 サプライチェーン・マネジメントでは第2章の在庫制御の発展としてのサプライチェーンについて概説する。在庫を、原材料在庫、WIP、完成品在庫、スペアパーツ、の4つに分類し、それぞれの在庫量削減方法について述べる。また、複数階層の在庫システムの振舞いについて若干述べる。
- 第18章 キャパシティ管理では、新製造ラインの設計や既存生産ラインの改造といった長期のキャパシティの計画の仕方を、最小化問題として定式化する。また、そこではFactory Physicsの諸公式を使用する。最後に、フロー・ラインの構成はバランスを取らないほうがよい、ことを述べる。
- 第19章 総合:全てをまとめるは、Factory Physicsの諸法則を組み合わせて問題を解決することを扱う。この章の大部分をFactory Physicsの諸法則を使って工場を改善する小説仕立ての話が占める。最後にFactory Physicsの総括を示す。