五衰の人 徳岡孝夫
- 作者: 徳岡孝夫
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1999/11
- メディア: 文庫
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さて、三島氏の最後の長編小説「豊饒の海」4部作の最終巻(第4巻)の題名が「天人五衰」であり、本書の題名はそこから来ています。死に向いつつある三島氏、という意味でこのような題をつけられたのだと思います。著者は当時サンデー毎日の記者として三島氏の最後の3年半に知遇を得ることが出来たのですが、本書はその貴重な記録で、記述からは三島氏への思いやりが感じられます。最近、私は似たような本として椎根 和の「平凡パンチの三島由紀夫」を読みましたが、それは本書に比べてやや散漫な印象を受け、私にとっては本書のほうがすぐれていると感じています。
本書で、おもしろい、と思った記述を引用します。
右の体験を三島さん自身が綴った手記『自衛隊を体験する』は、三島さんによる自衛隊の初の「試食」(彼自身の表現)を語るものとして面白い。文中、例によってキラキラ輝く比喩が少なくないが、全体の調子も昂揚・・・・というより、ほとんど上ずった個所さえある。たとえば戦中の体験と思い比べて
・・・・二十二年ぶりに銃を担つて、部隊教練にも加はつた。肩は忠実に銃の重みをおぼえてゐた。
私はベトナムの戦場で米海兵隊員のM16ライフルを持ってみたが、三島さんと同じ時代に軍事教練で扱った三八式歩兵銃に比べ、忠実な重みどころかその「軽み」に驚いたことがある。
こんなことは、戦時中に軍事教練を受けたことがない私には分からないことです。それからこんな記述もあります。
自決の翌日の夜だったと思う。密葬があると聞いて、私は南馬込の三島邸へ行った。門外で礼をして帰るつもりだったが、そこには学生服を着た十数人の若者が整列し、昭和維新の歌を歌っていた。歌い終わると、代表らしいのが進み出て門の内側に立つ人影に向かって「オッス」と挨拶した。挨拶を受けた人を夕闇に透かして見ると、弟の平岡千之氏だった。思わず「平岡さん」と声が出て近づくと、制服警官が遮った。平岡氏が「兄の友人です」と言いつつ門を開いてくれたので、思いがけなく邸内に入ることが出来た。
「赤尾敏さんから電話がありましてね。ぜひ弔問に伺いたいが、自分が行けばかえってご迷惑になるかもしれない、自宅で故人の霊を拝ませていただきますということでした。モノの分かった方ですねえ」と平岡氏は言った。私は玉串を捧げ礼をして帰った。
抑制された記述がとてもよいです。