ナポレオン
ナポレオンの生涯について簡潔にまとめた本を探していたとき、たまたま古本屋で見つけたのがこの本です。
- 作者: 井上幸治
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1957/10/17
- メディア: 新書
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たとえば、こんな記述
知的能力にいたっては、その底しれぬ強度と集中度が、一見対立する記憶力と構想力にささえられていたように思われる。事務室の静寂のなかで、かれは一枚一枚無味乾燥な報告書や決済書類をめくりながら、行政の末端から一連隊の会計まで把握し、フランスの政治的・軍事的現実をくみたてていた。(中略)フランス的明智とはたしかに直感的・構成的なものであるにちがいない。しかし18世紀の哲学にふれた人間として、本能的直感にたよるというより、方法的推理が優位をしめたのではなかろうか。「あらゆる作戦は体系にしたがって実施されなければならない。偶然は何ものをも生まない。」
(中略)
「もっとも現実的なもの」 そうニーチェはナポレオンをよんだ。抽象とか仮説でなく、直面するものはなまの現実でなければならない。「私はしごとの順序のなかで、いつも事実を考察し、けっして仮構を考察しない。」「支配するために、多少ともすぐれた理論にしたがうことは問題ではない。手もとにある素材をもって建設することだ。必要をうけいれ、それを利用することを知らなければならない。」
しかし、著者はまえがきにこんなことも書いています。
それにしても私はこの原稿を書きながら、たえずいらいらしていたのは、この天才的技術家が人間と社会と政治と戦争をあつかうやり方が、よい意味でも悪い意味でも、非人間的なためではなかったかと考えている。
とてつもなく能力のある人間、というのは、魅力的でもあり、そしておそろしくもあるものだと思いました。
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