ナポレオン

ナポレオンの生涯について簡潔にまとめた本を探していたとき、たまたま古本屋で見つけたのがこの本です。

ナポレオン (1957年) (岩波新書)

ナポレオン (1957年) (岩波新書)

なんと初版発行は1957年、半世紀前でした。もっとも購入した本は第44刷で1992年ですが。これはナポレオン礼賛の本ではありません。しかしナポレオンのすごさを記しています。
たとえば、こんな記述

 知的能力にいたっては、その底しれぬ強度と集中度が、一見対立する記憶力と構想力にささえられていたように思われる。事務室の静寂のなかで、かれは一枚一枚無味乾燥な報告書や決済書類をめくりながら、行政の末端から一連隊の会計まで把握し、フランスの政治的・軍事的現実をくみたてていた。(中略)フランス的明智とはたしかに直感的・構成的なものであるにちがいない。しかし18世紀の哲学にふれた人間として、本能的直感にたよるというより、方法的推理が優位をしめたのではなかろうか。「あらゆる作戦は体系にしたがって実施されなければならない。偶然は何ものをも生まない。」
(中略)
 「もっとも現実的なもの」  そうニーチェはナポレオンをよんだ。抽象とか仮説でなく、直面するものはなまの現実でなければならない。「私はしごとの順序のなかで、いつも事実を考察し、けっして仮構を考察しない。」「支配するために、多少ともすぐれた理論にしたがうことは問題ではない。手もとにある素材をもって建設することだ。必要をうけいれ、それを利用することを知らなければならない。」

しかし、著者はまえがきにこんなことも書いています。

 それにしても私はこの原稿を書きながら、たえずいらいらしていたのは、この天才的技術家が人間と社会と政治と戦争をあつかうやり方が、よい意味でも悪い意味でも、非人間的なためではなかったかと考えている。

とてつもなく能力のある人間、というのは、魅力的でもあり、そしておそろしくもあるものだと思いました。
【関連】[私の本棚]エロイカの世紀
[私の本棚]ドイツ参謀本部