天人五衰(豊饒の海 第四巻)

豊饒の海 第四巻 天人五衰 (てんにんごすい) (新潮文庫)

豊饒の海 第四巻 天人五衰 (てんにんごすい) (新潮文庫)

暁の寺」でインドの毒に汚染されてしまったかのようなこの四部作は、衰亡に向けてひた走ります。カバーにはこう紹介文が書かれています。

妻を亡くした老残の本多繁邦は清水港に赴き、そこで帝国信号通信社につとめる十六歳の少年安永透に出会った。彼の左の脇腹には三つのほくろが昴の星のようにはっきりと象嵌されていた。転生の神秘にとり憑かれた本多は、さっそく月光姫の転生を賭けて彼を養子に迎え、教育を始める・・・・・。存在の無残な虚構の前で逆転する<輪廻>の本質を劇的に描くライフワーク『豊饒の海』完結編。

昭和45年(つまり、三島がこの小説を書いていた年、そして彼が自決した年)、本多繁邦は76歳になっており、子供はいないが裕福な境遇にいます。しかし、この小説は本多の老いを執拗に描きます。もう一人の主人公、清顕の生まれ変りであるらしい安永透は頭でっかちな悪党です。本多自身が人生に対して否定的になっていて、この二人は似ているので憎みあいます。


これを買った大学生の頃の私には、この陰惨な話がなじんでいました。そして、この小説を映画にしたら、冒頭の音楽にはマーラーの第九番の第四楽章の冒頭がいいな、と想像していました。
この小説は私にとって若い頃の精神的衰弱の思い出です。今は、そこへは戻りたくない。