Word Whitt: The Queueing Network Analyzer(4)

Word Whitt: The Queueing Network Analyzer(3)」の続きです。
今日も2ページ。

QNAを分解法として、あるいは、拡張された積形式解として考えることが出来るが、ノード間の依存を捉えるための努力がなされている。このアイディアは内部フロー・パラメータによって近似的にこの依存性を表すというものである。


 QNAについての動機を見るために、1台のサーバと無限の待ちスペースと先到着先サービス方針を持つ1つのノードからなる基礎的な開放型ネットワークを考察しよう。個々の客が出発前に1回だけサービスを受ける1つの客クラスが存在するとしよう。この基礎的ネットワークの標準マルコフ・モデルはBEST/1やCADS、PANACEAに組み込まれているが、ポアソン到着過程と指数分布サービス時間を持つ古典的なM/M/1キュー*1 *2 *3である。M/M/1モデルについて(顧客がサービスを受け始める前の)期待待ち時間EW

	EW=\tau\rho/(1-\rho)			(1)

である。ただし\tauは平均サービス時間であり\rho0{\le}\rho<1を満足すると仮定されたトラフィック密度である。


 一方、QNAはこの1ノード・ネットワークを表現するのにGI/G/1モデル用の近似を用いる。GI/G/1モデルは再生到着過程を持ち、到着間隔時間分布とサービス時間分布の両方は一般分布である。QNAでは、到着過程は2つのパラメータ、すなわち、到着レート\lambdaと変動パラメータc_a^2、によって部分的に特徴付けられた再生過程によって表現される。サービス時間分布もまた2つのパラメータ、平均サービス時間\tauと変動パラメータc_s^2、によって部分的に特徴付けられる。(1)とは対照的に、QNAでの期待待ち時間の公式は

	EW=\tau\rho(c_a^2+c_s^2)g/2(1-\rho)		(2)

である。ただしg=g(\rho,c_a^2,c_s^2)は(c_a^2{\ge}1の時)1か(c_a^2<1の時)1未満である。(45)を参照のこと。g(\rho,c_a^2,c_s^2)=1の時、(2)は(1)と因子(c_a^2+c_s^2)/2だけ異なる。もし到着過程がポアソンであれば、c_a^2=1。サービス時間分布が指数分布であれば、c_s^2=1。よって、もしGI/G/1モデルが実際M/M/1モデルであるならば、(2)は(1)に簡約出来る。もちろん、QNAのユーザはc_a^2=c_s^2=1を設定し(1)を得る。実際、もしユーザが提供すべき変動パラメータを持たないならば、値c_a^2=1c_s^2=1はプログラムが使用するデフォルト値である。個々のc^2は任意の非負の値を仮定することが出来る。退化した確定的分布についてはc^2=0であり、アーランE_k、つまりk個のi.i.dの指数分布確率変数の合計、についてはc^2=k^{-1}であり、指数分布の混合についてはc^2>1である。(2)はしばしば顕著に誤差を縮小するので、(2)と(1)の差は大きくなり得る。


 (2)を得るために、到着間隔時間とサービス時間の分布のモーメントによって部分的に特徴付けられたGI/G/1待ち行列を我々は研究した。Holtzman*4、Rolski*5、Eckberg*6による以前の業績を元にして、我々は部分的な情報が与えられた場合のEWの可能な値の集合を調査した。*7 *8 *9 *10 *11c_a^2{\ge}1の時、公式(2)は常に可能な値である。つまり到着間隔時間とサービス時間の分布が(2)が正しいような指定されたモーメントを持つGI/G/1システムが常に存在する。一般に、(2)はかなり典型的な値であるように見える。


 今しがた考察した単一ノードの例では、到着過程は再生過程であった。より一般的には、モデル内の全ての非ポアソン到着過程が初めから再生過程であるためか、あるいはアルゴリズムが再生過程によって一般到着過程を近似していると解釈出来るためか、のいずれかであるので、それらを再生過程として考えるのが自然である。よって、1つの客のクラスでは、モデルを開放型ジャクソン・ネットワークM/M/m待ち行列のGI/G/m待ち行列の開放型ジャクソン・ネットワークへの一般化として考えるのが自然である。個々のノードは、一般分布で独立かつ同一に分布するサービス時間と独立な再生到着過程を持つGI/G/m待ち行列によって近似される。QNAはジャクソン・ネットワークの理論と整合がとれていることは重要なことである。つまり、もし単一の客のクラスが存在するのであれば、そして、もし全ての到着過程がポアソンであれば、そして、全てのサービス時間分布が指数分布であるならば、QNAは正確である。しかし、一般モデルについて解析的な結果はほとんど利用可能でないので、近似が必要とされる。


 ソフトウェア・パッケージQNAは柔軟なインプット手順を持つ。つまり、モデルは2種類以上のインプットを受け入れることが出来る(セクションII参照)。標準のインプットについては限られた情報のみ要求される。個々のサービス時間分布と個々の外部到着過程について2つのパラメータだけが必要とされる。またルーティング行列(マトリックス)が必要である。これは設備iでサービスを完了したそれらの客が次に設備jに行く割合を与える。(アルゴリズムはマルコフ的ルーティングに基づいている。)よって、nノードについてインプットはn^2+4n個の数字からなる。


 またクラスとルート毎に代替のインプットも存在する。この構成では客のさまざまなクラスが存在し個々のクラスは決められたノードでネットワークに入り、指定されたノードの順序を通って移動する。個々のクラスについて、その外部到着過程を特徴付ける2つのパラメータとそのルート上の個々のノードでのサービス時間分布を特徴付ける2つのパラメータが存在する。ルート毎にこのインプットを持つさまざまなクラスが、与えられたノードでさまざまなサービス時間を持つことが出来、同じクラスが同じノードのさまざまな訪問の間にさまざまなサービス時間分布を持つことが出来る。そのルート上にn個のノードを持つクラスについて、インプットは3n+2個の数字からなる。(これはルート上のn個のノードを含む。)

Word Whitt: The Queueing Network Analyzer(5)」に続きます。

*1:L. Kleinrok,「待ち行列システム、巻2:コンピュータへの適用」New York: John Wiley and Sons, 1976

*2:F.P.Kelly,「可逆性と確率的ネットワーク」New York:John Wiley, 1978

*3:R.B.Cooper,「待ち行列理論の紹介、第2版」New York: North Holland, 1981.

*4:J. M. Holtzman,「再生インプットを持つ等価ランダム法の精度」B.S.T.J., 52, No.9 (Nobember 1973), pp.1673-9.

*5:T. Rolski,「GI/M/n待ち行列の若干の不一致」Zast. Mat., 13, No.1 (1972),pp.43-7

*6:A. E. Eckberg, Jr.,「ラプラス・スティルチェス変換の鋭い境界とさまざまな待ち行列問題への適用」Math. Oper. Res., 2, No.2 (May 1977) pp.135-42.

*7:W.Whitt,「待ち行列の近似について、I:極値分布」B.S.T.J.,63, No.1, Part 1 (January 1984), to be published.

*8:J. G. Klincewicz and W. Whitt,「待ち行列の近似について、II:形の制約」B.S.T.J.,63,No.1, Part 1 (January 1984).

*9:W. Whitt,「待ち行列の近似について、III:指数分布の混合」B.S.T.J.,63,No.1, Part 1 (January 1984).

*10:W. Whitt,「IMRL/G/1待ち行列のMarshall and Stoyan境界はきつい」Oper. Res. Letters, 1, No.6 (December 1982), pp.209-13.

*11:W. Whitt,「待ち行列の拡散近似の洗練」Oper, Res. Letters, 1, No.5 (November 1982), pp.165-9.