オデュッセイアー(上)(下)

今では岩波文庫オデュッセイアーも松平千秋氏のものになっているけど、私が持っているのは古い、呉茂一氏のもの。


父親の不在。テーレマコスが物心ついた頃から父のオデュッセウスはいなかった。彼はトロイア戦争に出て行って10年、そして戦争はとうに終ったのにそれから10年たってもまだ帰ってこない。家では、あるじのいないことをよいことに、母親のペーネロペイアに言い寄る若者たちがまるで自分の家にいるかのように我が物顔で振舞っている。そんな状態で、テレーマコスはずっと頭を押さえられて育ってきた。しかし、心身の成長はやがてこの状況を打破する力を育んでいく。それが女神アテーナーの来訪という形で第1書に描かれている。


女神アテーナーは言う。

いっぽう私は、イタケー島へいって来ましょう、あれの息子*1をこの上とも
激励して、胸に勇気を奮いおこさせ、会議の席に、髪の毛を
長く延ばしたアカイア人らを呼び寄せたうえ、誰彼の差別なしに、
求婚者どもを、(けして復と来ないよう)断らせましょう、・・・

(第1書88-91)


そして

すなわちイタケーの里の、オデュッセウスが館の門前、
中庭口の敷居に立たれた、たなごころに青銅の槍を掴んだ
そのお姿は、国人ではない、タポスの島を治める領主メンテースに
そっくり、見れば今しも求婚者どもは、威張り返って、折から戸口の
・・・・・・

(第1書102-105)


そしてメンテースに化けた女神アテーネーはテーレマコスにこう言って激励する。

だが、いよいよそれもすっかり済ませ、万事の片がついたおりには、
その時こそは、十分に思案を凝らし、腹を決めるのだ、
どのようにして求婚者どもを、あなた自身の屋敷うちで
討ち取るかを、----策を用いてなり、または公然となり。もはやあなたも
子どものすさびは止めてよい頃、もうその歳ではないはずゆえ。
ご存知ないかな、どれほどたいした評判をあの勇ましいオレステースが
世界の到るところで得たかを
・・・・・・・
さればさ、あなたにしても、お見受けすれば、なりも大きく立派な若者、
勇気をひとつ出されたがよい、・・・・・・


(第1書293-302)


オデュッセイアーの主人公はもちろんオデュッセウスなのだけれども、49歳になって読み返すと、息子たちのことが気になる。テーレマコスとか第3書で登場するピュロス王ネストールの若い息子ペイシストラトスとか。

ホメロス オデュッセイア〈上〉 (岩波文庫)

ホメロス オデュッセイア〈上〉 (岩波文庫)

ホメロス オデュッセイア〈下〉 (岩波文庫)

ホメロス オデュッセイア〈下〉 (岩波文庫)

*1:テーレマコス