2.2. モデル化サイクル(1):Quantitative System Performance

2.1. 導入」の続きです。

2.2. モデル化サイクル


 待ち行列ネットワーク・モデル化の最も普通な応用は、既存システムの構成あるいは作業負荷の変更の性能への影響を予測することを含む。そのようなスタディには3つのフェーズがある。妥当性確認フェーズでは、既存システムの「ベースライン・モデル」が構築され、その充分性が確立される。予測フェーズでは、予想される修正の性能への影響を予測するためにこのモデルが使われる。検証フェーズでは、修正されたシステムの実際の性能がモデルの予測と比較される。これらを一緒にして、これらの3フェーズは図2.1に示すようにモデル化サイクルと呼ばれる。

  • 図2.1 モデル化サイクル

 妥当性確認フェーズはモデルの定義からはじめ、それは表現されるそれらのシステム・リソースと作業負荷コンポーネントの選択や特別な注意を要するであろういかなるシステムの特徴(例、プライオリティ・スケジューリング、ページング)の特定、モデル構成(例、分離可能、ハイブリッド)の選択、使用可能な測定データから必要なパラメータを得るための手順を含んでいる。
 次に、作業負荷尺度(それらからモデルの入力が計算される)と性能尺度(それらはモデルの出力と比較される)を得るためにシステムを測定する。場合によってはこれらは同じである。例えば、デバイス稼動率は作業負荷尺度(サービス要求時間を計算するためにそれらを用いる)でありまた性能尺度(モデルの精度を評価するためにそれらを用いる)でもある。他方、バッチ作業負荷のマルチプログラミング・レベルは完全に作業負荷尺度であり、システム応答時間は完全に性能尺度である。
 次に作業負荷尺度は、モデルのパラメータ値を決定するのに用いられ、パラメータ値決定は、さまざまな変形が必要となるかもしれないステップである。モデルは評価され、出力を生みだす。これらはシステムの性能尺度と比較される。食い違いは、無視されたあるいは不適切に表現されたシステム特徴や、間違って値を設定したモデル入力といった過程における不備を示している。あいにく、そのような食い違いがないことが、システムあるいは作業負荷の変更の影響をモデルが正しく予測することを保障しない。モデルの予測能力への信頼は2つの源から来るだろう。第1は、たぶん選ばれた修正を含む、多くの測定期間にわたって繰り返す妥当性確認である。例えば、もしモデル化スタディの目的がメモリ追加のメリットの評価であるならば、既存メモリのさまざまな量をディセーブルにしながら妥当性確認フェーズを繰り返すことが可能だろう。2番目はのちに検討する検証フェーズの完了である。
 予測フェーズでは、システムあるいは作業負荷に対する予測される変更を反映するためにモデル入力が修正される。これは複雑な過程で、それについて我々はかなりの注意をこの本のあとのほう(第13章)で払うことになる。次にモデルは評価される。修正したモデルの出力と元々のモデルの出力の間の差が修正の予測される影響である。
 最後に検証フェーズでは、修正したシステムが測定され2つの比較が行われる。1番目に、その性能尺度がモデル出力と比較される。2番目に、その作業負荷尺度がモデル入力と比較される。モデルの予測とシステムの性能の間の食い違いは2つの原因から発生する可能性がある。すなわち、(過去にさかのぼって)顕著なシステム特徴の、省略か間違った表現、と、予想していたのとは異なる仕方でのシステムの発展、である。これらの食い違いの原因を理解し評価することは、コンピュータ・システム解析技術としての待ち行列ネットワーク・モデル化における信頼を得るのに極めて重要である。モデル性能予測の精度は、入力として供給された作業負荷予測の精度よりよくなり得ない。


2.2. モデル化サイクル(2)」に続きます。