6.1. 導入:Quantitative System Performance

5.7.演習」の続きです。(目次はこちら

6.1. 導入


 この章では単一クラス待ち行列ネットワーク・モデルを研究する。単一クラス・モデルは境界モデルの改良であり、それは単に境界ではなく、むしろ性能尺度の見積り値を提供する。例えば、あるシステムのスループットが(与えられた個数について)1.1から2.0ジョブ/分の間にあることを決定する代わりに、単一クラス・モデルは、1.7ジョブ/分のような、実際のスループットの見積り値を提供する。
 単一クラス・モデルでは、客は互いに区別出来ないと仮定される。単一クラス・モデルは常に単純化であるが、それらはそれでもなお現実のシステムの正確な表現であり得る。単一クラス・モデルが使用されるような多くの状況が存在する。

  • 情報の増加:境界スタディの結果は十分に詳細な情報を提供しないかもしれない。単一クラス・モデルはモデルを次第に詳細にする行程における次のステップである。
  • 興味のある単一作業負荷:考慮下のコンピュータ・システムはその性能にとって重要な単一の作業負荷だけを実行しているかもしれない。よって他の作業負荷要素を明示的に表す必要はないかもしれない。
  • 同質の作業負荷:コンピュータ・システムのさまざまな作業負荷要素は同じような処理要求時間を持っているかもしれない。理にかなったモデル化のための抽象はそれら全てを単一客クラスに属すると考えることである。


 反対に、単一客クラスでコンピュータ・システム作業負荷をモデル化することが不適切であるような多くの状況が存在する。これらの状況は通常、個々の作業負荷要素が際立って異なるリソース使用を示すためか、あるいは、モデル化スタディが作業負荷全体についてではなく個々の作業負荷要素に関して入力や出力を特定することを要求するためか、のいずれかによって発生する。各々の典型的な例は以下の通りである。

  • 複数の区別される作業負荷:バッチとタイムシェアリングの両方を実行しているシステムの上では、バッチ作業負荷はCPUに境界づけられているが、タイムシェアリング作業負荷はI/Oに境界付けられているかもしれない。「平均」ジョブを表す単一クラスからなる客の数を持つ待ち行列ネットワーク・モデルは、実際のシステム内のジョブがまるでほぼ区別出来ないように振舞うことはないので、正確な予測を提供しないだろう。
  • クラス依存のモデル入力:ミックスド・バッチ/タイムシェアリング・システム内で、タイムシェアリング作業負荷は次の2年間で100%増加することが予測されているが、バッチ作業負荷はたった10%増加すると予測されている。単一クラス・モデル内では「標準」客の単一クラスしかないので、作業負荷要素が異なる増加率を示すような入力パラメータを設定することは出来ない。よって、単一クラス・モデルは適切な表現ではない。
  • クラス依存のモデル出力:生産プログラムと開発プログラムの両方を実行しているバッチ環境では、単なるシステム内の「平均」時間の見積よりもむしろ各々の作業負荷要素のシステム内時間についての予測が望まれるであろう。単一クラス・モデルには1つのクラスだけしかないので、出力がそのクラスに関してのみ与えられ、システムの元々のクラスに関してこれらの尺度を解釈することは困難である。よって、複数クラス・モデルが要求される。

上の例で示したように、かなり異なった特徴を示す作業負荷を持っているシステムは、単一クラス待ち行列ネットワークによるよりも複数クラス待ち行列ネットワークによってより合理的にモデル化されるであろう。これらのより洗練されたモデルは第7章で検討される。
 この章の次の2つのセクションはコンピュータ・システムのモデルとしての単一クラス待ち行列ネットワークの実際的な応用を扱う。セクション6.2はコンピュータ・システムのジョブ・ミックス動作を模倣するために負荷強度パラメータを使用することを検討する。セクション6.3は単一クラス・モデルが利用されてきた多くのケーススタディを記述する。
 この、単一クラス・モデルの実践に関する検討のあとにはそれらの理論についての検討が続く。セクション6.4ではモデルを評価するのに必要なアルゴリズムが開発され、例とともに示される。セクション6.5はモデルが基礎を置いている理論的土台を提示する。

6.2. 作業負荷の表現」に続きます。