8.1.導入:Quantitative System Performance

7.8.演習」の続きです。(目次はこちら

8.1.導入


 前の諸章でスタディしたモデルはその構造とその評価に必要なテクニックの両方において単純であった。しばしば、コンピュータ・システムのさらに詳細が表現出来るようにより洗練されたモデルを構築することが有用である。この章で我々はそれを行うためのテクニック、つまり階層的モデル化を検討する。階層的モデル化は大きなモデルを多くの小さなサブモデルに分割する過程である。次にこれらのサブモデルの各々が評価され、個々の解はもともとのモデルの解を得るために組み合わされる。再結合はフロー等価サービスセンター(FESC: flow equivalent service center)と呼ばれる特殊なタイプのサービスセンターを用いて実行される。
 図8.1に示すようなモデルを考察しよう。これは共用I/Oサブシステムを持つ2つの単一CPUシステムを表している。一般の場合、総体と呼ばれる任意に定義されたサブシステムが存在し、それはネットワーク内の他のサービスセンター(これは補完ネットワークと呼ばれる)とやりとりを行う。この例の場合、補完体はCPUを表し、総体は複雑なI/Oサブシステムを表す。階層的方法における主要なステップは総体全体を、その振舞を模倣する単一のサービスセンターで置き換え、よって解くべきネットワークのサイズを縮小することである。

 補完体内のサービスセンターの観点からは、総体は、その振舞が、そこでの滞在時間(つまり、客が総体に入ってから客が総体を出発するまでの時間)と、客が総体から補完体に戻るレートとパターン(つまり、総体の出発過程)によって特徴づけられたブラックボックスとして考えることが出来る。客が総体で適切なディレイを経験する限り、そして総体の出発過程が正しい限り、補完体内のサービスセンターは総体の実際の構造に影響されない。よって、適切な出発時間間隔をもたらす総体の任意の表現は(補完体内のサービスセンターに関する限り)ネットワークの解を得るのに充分である。特に、補完ネットワークについて得られた性能尺度は、総体が多数のサービスセンターとしてあるいは単一サービスセンターとしてのいずれで表現されるかにかかわらず同じであるだろう。
 フロー等価サービスセンターの概念を導くのはこの理解である。FESCは、補完ネットワークの立場からは、総体自身と同じように振舞う単一サービスセンターである。これは、FESCが(最低)それを通過する客に、仮に客が実際に総体の詳細表現の中を進んだとした場合に経験するであろう平均ディレイと同じ平均ディレイを引き起こさなければならないということである。(一般には、FESCが正確であるためには、それは平均だけでなく、総体からの到着時間間隔の実際の分布を模倣しなければならない。しかしそのような詳細なFESCは実際の利用には煩雑過ぎるので、我々は平均滞在時間とスループットだけが一致するFESCに限定する。)総体の詳細な表現はおそらくより複雑であるがFESCは単一サービスセンターであるため、FESCの使用はずっと単純なモデルをもたらすので魅力的である。
 FESCは階層的モデル化の鍵である。階層的モデル化(しばしば階層的分解と呼ばれる)はモデルの複数のレベルを用いてシステムをモデル化する過程である。最高のレベル、レベル0でのモデルは複数のFESCからなり、それらの各々がモデル化されるコンピュータ・システムのある部分を表現する。それより下のレベル、レベル1は、複数のモデルからなり、その各々はレベル0でFESCとして表現されていたサブシステムのより詳細な表現である。レベル1モデルの各々それ自身もFESCを含んでいるかもしれない。一般に、レベルlでのFESCの特性はレベルl+1でのモデルを解くことによって決定され、最後に全てのモデルが完全に詳細になっている、つまりFESCを含まないようなレベルに到着するまで続く。図8.2は可能な分解の図式を示している(表記的には、FESCは、変動を暗示する、サーバを通る矢印によって区別される。)

  • 図8.2 モデル分解

モデルの定義は通常レベル0からレベルLへ進むが、モデルの評価は反対方向に、つまりレベルLからレベル0に向かって起こらなければならない。最終的にレベル0のモデルが評価され、モデル化されたコンピュータ・システムの性能予測がその解から得られる。
 もともとの必要性のほかにモデルのレベルを定義するために階層的モデル化における2つの主要な要求が存在する。1番目は、FESCのために適した構造を見つけることである。我々の目的はサブシステム全体と置き換えることが出来るような単一サービスセンターを作成することである。よって、このセンターは我々がいままで見てきたサービスセンター、それらは単一のリソースのみを表現するのであるが、それより複雑であることが予想される。レベル/FESCのための適切な表現を見つける問題と密接に関係しているのは、レベルl+1でのサブモデルからそれらのパラメータの値を得る問題である。これらの課題はセクション8.28.3で考察される。
 階層的モデル化過程の2番目の要求はFESCを含むモデルを評価することである。上述のとおり、FESCは我々が今まで見てきたタイプのセンターより複雑であると我々は予想しなければならない。これに対応して我々はそれらを含むモデルを評価するのに必要な解法はより複雑であると予想しなければならない。この課題はセクション8.4で扱われる。

8.2.フロー等価サービスセンターの作成に続きます。