私の本棚に次に並んでいたのは円地文子訳の源氏物語、全5巻でした。
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何回か全て読んでいるので、1巻毎に何か書けるだろうと思っていたのですが、いざパソコンに向かうと全然書けませんでした。源氏物語が少しも自分の身の中に入っていないことに気付きました。なので、ここは作戦を変えてこの5巻全体の中から気に入った個所について少し書きます。
源氏51歳、長年連れ添ってきた紫の上が衰弱し、やがて亡くなるという「御法(みのり)」の巻。ここでの紫の上の、いろいろな物事につけて感慨深そうにしているところは、何か上質の映画を見ているような気がします。
この年月、こういう催しのあるごとにお集まりになって遊楽なさった方々のお顔立ちや御様子も、一人々々の技倆や琴笛の音色も、今日こそ聞き納め、見納めであろうかとばかりお思いになるので、それほど目立たぬ人の顔までも、(紫の上は)心にとめて御覧になるのであった。
ここで「こういう催し」と言っているのは、紫の上が長年、来世のためと思って書かせていた(自分で書いているわけではないんだ。身分が高いから・・・)法華経千部を供養する法会(ほうえ)のことです。法会というと何か抹香臭い気がしてしまいますが、これは平安時代の全盛期の頃の高位貴族の催す法会ですから、とても華やかな催しです。季節は旧暦3月10日、今で言えば4月でしょう。
夜一夜、読経の声に合わせて絶えず鼓(つづみ)を打ち鳴らすのが興深い。やがてほのぼのと夜が明けはなれてゆく。霞の間にいろいろに咲き乱れている花、やはり春に一番心のひかれるのが自然だと思われるほどに光り満ち、匂い満ちて、さまざまの鳥の囀りも笛の音に劣らぬ麗しさである。あわれ深さも面白さもすべてこの上ないと思われる時に、陵王の舞が急な調子になり、終りに近い楽の音がはなやかに賑々しく聞え、一座の人々が脱いで舞人に与える衣のとりどりの色合いなども、折が折とていっそう情景にふさわしく趣深い。親王(みこ)たち、上達部(かんだちめ)の中でも、音楽の道に優れた方々はいっぱいに技倆(わざ)を尽して演奏される。
こんな情景を御簾越しに見ながら「今日こそ聞き納め、見納めであろうかとばかり」に考えて心にとめている様はとても美しく思われ、映像で見てみたい気がします。
また、夏になってからですが、似たような下の情景も、印象に残ります。
宿直(とのい)の殿上人(てんじょうびと)の名対面(なだいめん)をお聞きになるにつけても、あれかこれかと聞き覚えのある声をおのずから耳にとめてお聞きになる。