背教者ユリアヌス(下)

背教者ユリアヌス (下) (中公文庫)

背教者ユリアヌス (下) (中公文庫)

ここからは史実そのものが劇的なので、物語も盛り上がります。発端は、ペルシアとの戦争が勃発し、皇帝コンスタンティウスがガリアにいる副帝ユリアヌスに軍の一部を東方に回せと要求してきたことです。これを聞いたガリアの軍団は、そんな遠くに出動することに反対し、あげくの果てにユリアヌスを皇帝に推戴してしまいます。ユリアヌスはコンスタンティウスに弁明の手紙を書きますが、理解してもらえないと悟ると反乱に踏み切ります。最初は東方に行くのがいやだ、と不平を言っていたガリアの軍団が、コンスタンティウスと対決するとなると喜んでユリアヌスに従ってコンスタンティノープルを目指すというのは、人の心は不思議なものです。時の勢いに飲まれたというわけでしょうか?


ユリアヌスの軍は順調に東に進軍してきます。いよいよ両軍対決、という時になって、皇帝コンスタンティウスが崩御します。しかも死の直前に後継者としてユリアヌスを指名していました。こうして激しい戦闘ののちに得られると思っていた皇帝位が自然に転がり込んできたのでした。
皇帝に即位したユリアヌスには何かキリスト教を推し止めるためのあせりのようなものを感じさせます。古代ギリシアの神々への信仰を復活させる試みはあまりうまく行きません。そうこうするうちにペルシアと再び戦争になり、出陣するが戦場で矢を受けて死んでしまいます。


私は皇帝になってからのユリアヌスに(この小説の中のユリアヌスにですが)どうも共感が湧きません。私にとってのクライマックスはユリアヌスが陣中でコンスタンティウスの死と自分を後継者に指名したという知らせを聞くところです。最後にはユリアヌスを指名する、というところに彼の統治者としての理性を感じます。