クローズド待ち行列ネットワークの到着定理(2)

クローズド待ち行列ネットワークの到着定理(1)」の続きです。
式(7)

  • \frac{p\left(\vec{k(j:+1)}\right)}{p\left(\vec{k(i:+1)}\right)}=\frac{\min(k_i+1,m_i)m_ju_j}{\min(k_j+1,m_j)m_iu_i}・・・・(7)

では状態\vec{k(j:+1)}\vec{k(i:+1)}を考えていますが、この2つの状態でのジョブの数は同じです。ここでちょっと、ネットワーク全体のジョブの数について注意を払っておきましょう。状態\vec{k}の時のネットワーク全体のジョブ数をw-1とします。つまり

  • \Bigsum_{j=1}^Nk_j=w-1・・・・(8)

です。こうすると状態\vec{k(j:+1)}\vec{k(i:+1)}ではネットワーク全体のジョブ数はwとなります。クローズド待ち行列ネットワークではネットワーク全体のジョブ数は変化しないので、状態\vec{k(j:+1)}\vec{k(i:+1)}は相互に遷移しあいますが、状態\vec{k(j:+1)}\vec{k(i:+1)}は状態\vec{k}に遷移することはありません。これらはネットワーク全体のジョブ数が異なる状態です。そこで、ネットワーク全体のジョブ数がwの時の定常状態確率はp()で表し、ネットワーク全体のジョブ数がw-1の時の定常状態確率はP()で表すことにします。


さて、状態\vec{k(q:+1)}から状態\vec{k(1:+1)}への遷移を考えます。この遷移は、ネットワーク全体にジョブがw個ある場合において、ジョブがステーションqから出発してステーション1に到着する遷移を表しています。この時、この到着するジョブは(ネットワークから自分を除いて、)状態\vec~kのネットワークを見ることになります。
時間dtの間の状態\vec{k(q:+1)}から状態\vec{k(1:+1)}への遷移の確率は

  • \frac{\min(k_q+1,m_q)}{t_{eq}}p\left(\vec{k(q:+1)}\right)dt・・・・(9)

となります。


今度は状態\vec{k}に比べてステーションqのジョブ数が1個多く、ステーションiのジョブ数が1個少ない状態を考え、これを\vec{k(i:-1,q:+1)}で表します。次に、状態\vec{k(i:-1,q:+1)}に比べてステーション1だけが1個ジョブ数が多い状態を\vec{k(1:+1,i:-1.q:+1)}で表します。また、状態\vec{k(i:-1,q:+1)}に比べてステーションqだけが1個ジョブ数が多い状態を\vec{k(i:-1,q:+2)}で表します。状態\vec{k(i:-1,q:+2)}から状態\vec{k(1:+1,i:-1.q:+1)}への遷移は、ネットワーク全体にジョブがw個ある場合において、ジョブがステーションqから出発してステーション1に到着するもうひとつの遷移を表しています。この時、この到着するジョブは(ネットワークから自分を除いて、)状態\vec{k(i:-1,q:+1)}のネットワークを見ることになります。時間dtの間の状態\vec{k(i:-1,q:+2)}から状態\vec{k(1:+1,i:-1.q:+1)}への遷移の確率は

  • \frac{\min(k_q+2,m_q)}{t_{eq}}p\left(\vec{k(i:-1,q:+2)}\right)dt・・・・(10)

となります。


この2つの遷移確率の比が、ネットワーク全体にジョブがw-1個の時の定常状態確率P()で表すことが出来ないか、というのが当面の主題です。この2つの遷移の比をRとしましょう。つまり

  • R=\frac{\frac{\min(k_q+2,m_q)}{t_{eq}}p\left(\vec{k(i:-1,q:+2)}\right)dt}{\frac{\min(k_q+1,m_q)}{t_{eq}}p\left(\vec{k(q:+1)}\right)dt}・・・・(11)

です。この式を整理すると

  • R=\frac{\min(k_q+2,m_q)p\left(\vec{k(i:-1,q:+2)}\right)}{\min(k_q+1,m_q)p\left(\vec{k(q:+1)}\right)}・・・・(12)