伊勢神宮の謎を解く

伊勢神宮の謎を解く アマテラスと天皇の「発明」 (ちくま新書)

伊勢神宮の謎を解く アマテラスと天皇の「発明」 (ちくま新書)

オビには「なぜ二つの御神体がまつられたのか?」とありました。それを見た頃、私は鏡宮のご祭神「岩上二面神鏡霊(いわのうえのふたつのかみかがみのみたま)」のことが気になっていたので、「二つの御神体」とは「二つの鏡」に違いない、と早合点してこの本を買いました。それは早合点だったことがあとで分かりましたが、おもしいろい本です。著者の専門は建築家だということですが、建築家ならではの視点もあります。神社には野外祭祀系と屋内祭祀系の2つの系統があるとする著者の指摘は興味深いです。著者は野外祭祀系を「ヒモロギ系」と名づけ屋内祭祀系を「居館系」と名づけています。「ヒモロギ系」の代表が伊勢神宮で、ここでは神の館に人が入ることは出来ません。神人分離が原則なのです。「居館系」の代表が出雲大社で、これは古代豪族の館がそのまま神社になったものだそうで、神と人が同じ屋根の下にいるのが特徴です。著者は壬申の乱に勝利した天武天皇が、各地の豪族達の神社を「居館系」から「ヒモロギ系」に強制的に変えさせた、と主張しています。それは何のためかと言いますと、神を豪族の館から外に出すことによって、朝廷の管理下に置くためだということです。そのための見本(モデル)として整備されたのが伊勢神宮だった、というのですが、私は正直、その点には頭をかしげます。もう少し整理が必要なようです。しかし、神社確立以前の神々のあり方について著者が展開する記述にはワクワクするものがあります。「蛇」「太陽」「高木」「稲霊」について古代の人々がどういう信仰を持っていたのかについて、この本は説得力のある論旨を展開しています。


また、建築家という職業がそうさせるのか、本に載せられたモノクロの写真にも素敵なものが多いです。例えば、三内丸山遺跡に巨大な竪穴建物があるのは私は勉強不足でこの本を読むまで知りませんでしたが、この建物の内部の写真が載っています。それを見た時、「これはマオリ族の集会場だ」と直感しました。マオリ族の集会場そのものではないのですが、復元された内部にはそれを思わせる雰囲気が充満しています。そこでは族長と部族の者達の対話がなされていたような気がしました。それは私達の知っている日本のイメージよりかなり異質な雰囲気です。このように何かを感じさせる写真が多いのです。あるいは、桧原神社の三ツ鳥居の写真。この写真に引かれて、私は5月に実物を見に奈良県まで行ってしまいました(三輪山 纒向(まきむく)(3))。

(これは私の写した写真であって、本に載っている写真はもっと神々しい)


話を最初の「なぜ二つの御神体がまつられたのか?」に戻しますと、著者によればこの2つの御神体は鏡と心御柱(しんのみはしら)の2つのことです。心御柱というのは伊勢神宮正殿の真ん中にある柱のことですが、この柱は奇妙な柱であって、実際には柱の用をなしていないのです。この柱は大変短く、何も支えていません。そして、心御柱は秘中の秘であって、これについては何も言ってはいけないことになっています。著者はこの柱は本来はもっと大きな柱かあるいは高木であったと推測し、それを高木の神とも呼ばれるタカミムスヒに結び付けています。本来、伊勢神宮に祭られていたのはタカミムスヒだというのが著者の推測です。(ここについても私は納得してはいないのですが・・・・)
ついつい、文句をつけてしまうのですが、私にとってはひさびさに収穫の多い本でした。