ゲルマン英雄伝説

ゲルマン英雄伝説

ゲルマン英雄伝説

かつて買った「北欧神話と伝説」にはディートリヒ伝説が載っていませんでした。私はディートリヒ伝説が読みたくてこの本を借りました。この本に収録されているのは

  • ベーオウルフ
  • ニーベルンゲン伝説
  • ディートリヒ伝説
  • ハムレット原話

です。このうちディートリヒ伝説以外は「北欧神話と伝説」で読んだことがありました。ベーオウルフは「北欧神話と伝説」では「スギョルド家とハドバルド家」の長い物語の中の一部として登場しています。両方の本を読み比べると互いに補う内容があって興味を惹きます。


さてディートリヒ伝説のほうですが、これは民族大移動の頃の、つまり西ローマ帝国滅亡の頃の、東ゴート王テオドリクがモデルだということです。しかし、歴史上のテオドリクとディートリヒにはほとんど共通点がありません。いちいちその事例を指摘するまでもなく、何から何まで異なっています。それに、同じ本に収録されている他の伝説に比べてかなりおとぎ話の雰囲気があります。巨人は出てくるわ邪悪な小人が出てくるわ(まあニーベルンゲン伝説にもそういうのは出てきますが)普通の人間には見えない秘密の花園やら妖精の女王やらが登場して、「英雄伝説」という語から受けるいかめしい感じはありません。それに主人公のディートリヒ自身が口から「火のように熱い息」を吐いて、自分を縛めている鉄の鎖を溶かしてしまう、なんて話があって・・・あなた、そりゃ英雄ではなくて、怪獣の一種でしょう、と言ってみたくなります。


ということでディートリヒ伝説を一通り知ることが出来ましたが、何だかあまり心に残りませんでした。読んで心に残ったのはベーオウルフです。古代ゲルマンのあこがれる英雄像がどんなものか、少しつかめたような気がします。率先して危険に立ち向かい、周りの者に富をもたらす者です。ただ残念なのは、この伝説が一応キリスト教を前提にしていることです。異教の神々の姿はここには見ることは出来ません。