ハワイ・南太平洋の神話

おもしろかった。神話の何が私をひきつけるのだろう。本書で紹介される物語はどれも断片的であるが、それぞれに何か私にフィットするものを見せてくれる。この本は神話のの背景となる生活や歴史(考古学)の叙述に重きをおいている。

ここで目指すものは、神話自体の起源や系統論ではない。また神話から人類に普遍的な深層心理を見いだそうとも思っていない。あるいは神話を閉じた体系として扱い、抽象的な構造を導き出すことも考えてはいない。そうではなく、神話を南太平洋の自然現象、航海、農耕、漁労、人々の生と死、あるいは社会や王権といった具体的な脈絡のなかに置いてみることによって、神話に生命を与えることこそ、本書で試みたいことである。


「ハワイ・南太平洋の神話」の「はじめに」から


以前、マオリ神話を読んでいて、そこでは天空が何層にも分かれているという世界観があることは知っていたが、それが何に由来するのかは知らなかった。それが、本書の以下の記述を読んでなるほどと思った。

さて、長い間、海を越えてきた人々の世界観の特徴について、ポリネシア人の民俗哲学を研究するダッドレイは次のように論ずる。人々が「近いオセアニア」を東に移動しつつあったときは、次の島、目標の島は見えていた。ところが「遠いオセアニア」に入るとそれは不可能になった。そのため新たな世界観が生まれた。航海は目標を目で見て行う方法から、星を見て方向を推測する方法に変わった。つまり見えない物を見る方法である。
 人々は東からの向かい風に逆らって航海した。そのため、東ないし北に向かって航海することを登る、逆に南および西に航海することを降りる、と表現する。だからその航海は日の出ずる場所に向かう水平移動であると同時に、天に向かう垂直移動でもあった。水平線を見れば、空と海が交わっている。しかしそこに辿り着くとまたその先に空がある。人々は大海原に時おり架かる虹を見て、世界も虹のように層をなしていると考えた。今見えている水平線まで辿り着けば、天空界の第一層に辿り着く。その先には第二、第三の層があると。


「ハワイ・南太平洋の神話」の「第二章 虹を越えてきた神々」から