アレクサンドリア四重奏― 2:バルタザール

アレクサンドリア四重奏 2 バルタザール

アレクサンドリア四重奏 2 バルタザール

一応読み終わりましたが、さまざまな伏線が張り巡らされているようで、第3巻、第4巻と進むにつれて、これらのうちのどれが重要になってくるか、今時点では私には分かりません。現時点での私の印象のままに、この巻の内容を要約してみます。


第1部

  • 主人公は第1巻「ジュスティーヌ」の原稿をバルタザールに送ったらしい。バルタザールがスミルナへの旅の途中に主人公の住むエーゲ海の島に短時間滞在する。バルタザールはジュスティーヌの原稿の行間に大量の注釈や疑問点を書き込んだものを主人公に渡す。その注釈や疑問点を読んでいくうちに主人公はアレクサンドリアでの自分の体験を自分の殻に閉じこもった観点で理解していたことを知る。(私は「ジュスティーヌ」で神秘主義者だと思っていたバルタザールが、この巻では意地悪な観察眼を持つ人物と感じてきてしまう。訳文の問題もあるだろがどうもバルタザールの言葉のはしばしで気に障る。)彼は、ジュスティーヌは主人公ではなくパースウォーデン(「ジュスティーヌ」で成功した作家として登場する。「ジュスティーヌ」の途中で謎の自殺をとげる。)を愛していた、彼女は夫ネッシムの嫉妬から彼を守るために君をおとりに使っていたにすぎない、その一方でパースウォーデン自身は彼女にはまったく気がなかった、と書く。以降、この巻「バルタザール」では、バルタザールからの情報を主人公が取り込み、主人公の経験したと思っているいろいろな出来事の経過を再構成するさまを描く。
  • ネッシムがジュスティーヌに結婚を申し込み、ジュスティーヌは行方不明になっている自分の娘(以前の結婚で得た子供)を探すにはネッシムの財力が役立つという打算から結婚に合意する。ネッシムはジュスティーヌとの結婚を母親(レイラ)と弟(ナルーズ)に承諾してもらうために、故郷のオアシスに戻る。その描写からネッシムが何か政治的な計画を持っているらしいこと、そしてレイラもナルーズもそれにかかわっていること、が明らかになる。さらには第3巻の題名になっているがまだ登場しないイギリスの外交官マウントオリーヴもその計画に賛同しているらしい。マウントオリーヴがかつてレイラの恋人であったことも明らかになる。(それにしてもネッシムがジュスティーヌに結婚を申し込む理由が分からない。ジュスティーヌは自分がネッシムを愛せそうにないことを正直に打ち明けているのだが・・・。) ネッシムとジュスティーヌの結婚式の様子が語られる。それから話は一転して、「ジュスティーヌ」の最後のほう、ネッシム主催の鴨狩りで不審な死をとげたカポディストリアについてバルタザールは、死んだのはカポディストリアではない可能性を示唆する。


第2部

  • バルタザールはパースウォーデンの性格を説明する。彼は皮肉屋で高慢に見えるが、それは表面的であって才能を持ちながらその明晰な分析力のために厭世的な性格だったと言う。(バルタザールの説明を読んでも私にはどうもパースウォーデンの性格が理解できない。) パースウォーデンの率直さとジュスティーヌの抱える精神的な問題への的確な分析がジュスティーヌに安心感を与え、ジュスティーヌがパースウォーデンに恋する原因になる。ネッシムはジュスティーヌの子供を取り戻せばジュスティーヌの愛を得られると考え、弟のナルーズに子供を誘拐した疑いのあるアラブ人の邪悪な霊能力者(マグズブ:訳注には「狂気の預言者あるいは狂気を装う預言者を言う。」とある)を調べさせる。(ナルーズとこの霊能力者の対決の描写はおもしろい。) 霊能力者は娘が運河に落ちる光景をナルーズに見せる。ナルーズは納得し、ネッシムに「子供は死んだ」と電話する。ネッシムがそれに答えて「このことはジュスティーヌには黙っておいてくれ」と言ったのを、たまたま通りがかったジュスティーヌが聞きつけて、ネッシムが何かを隠している、と考え始める。そしてジュスティーヌはネッシムに危害を加えられるのではないかと怖れるようにさえなる。バルタザールは書く 「きみが登場したのはこのときだ。」
  • あと、よく分からない次のやりとり。バルタザールの時計の鍵がネッシムの金庫の鍵に似ていた。ジュスティーヌはネッシムの金庫を秘かに開けるためにバルタザールの時計の鍵を盗んで、それで金庫を開けようとした。しかし当然開かない。鍵はその後行方不明になる。二日後ネッシムがジュスティーヌにその鍵を見せて、自分のカフスボタンの箱に入っていた、これをバルタザールに返してくれ、と言う。


第3部

  • チェルヴォーニ家で行われた謝肉祭でのお祭り騒ぎ。この時はみんな仮面をつけ仮装をしてはしゃぐ。誰が誰だか分からなくなる。チェルヴォーニ家にそろって出発する前にジュスティーヌは、おかまで道化師めいたトトに自分の指環をはめさせる。その指環のせいでトトは殺される。指環は警察に保管された。ジュスティーヌは指環を取り戻すことに執心である。なぜか? 主人公たちが警察で形式的に取り調べられるがすぐに釈放され、指環も戻ってくる。


第4部

  • クレアが主人公に語る、ナルーズがジュスティーヌと間違えて(ジュスティーヌがトトにはめさせた指輪のせいで間違えて)トトを殺した、と。そして、ナルーズ自身がそれをクレアに告白した、と。同時にナルーズはクレアに自分のクレアへの思いをも告白した。ナルーズは醜い顔をしていて自分でそれを恥じている。クレアはナルーズには嫌悪の情しか湧かない。最後は、今はどこか別の国にいるクレアから主人公への手紙が紹介される。その手紙の中にパースウォーデンのクレアへの最後の手紙を引用している。それはパースウォーデンが書きかけて、自殺によって中断した小説「神は諧謔家」の最後の巻について述べている。これもまた難解な文章だ。

クレア、きみの質問はまさにぼくが自分自身に問いかけている質問だ。最後の巻に片をつけるまえに、そいつをもうすこしはっきりさせなけりゃね。この巻では、とりわけ、いままでに創りあげた緊張関係を結合し、解明し、調和させたいと思っているのだから。ぼくはひとつの調子を・・・・肯定の音調を響かせたいと思っている――だが哲学や宗教の専門用語を使ってではない。(中略)ぼくたちが生きている世界は、宇宙の法則などという煩雑な説明では伝えがたい単純な何かを基盤にしているのだという感覚を(中略)伝えねばならない。


正直なところ、私はこの小説をあまり消化出来ていません。