神経回路網の自己組織と神経場のパターン力学 甘利俊一著(1)

ネット上に甘利俊一氏(現 東京大学名誉教授)の論文

がありましたので、これを読んでいこうと思います。1981年と古い論文ですが、きっと私にとっては学ぶべきことが多いことでしょう。

神経回路網の自己組織と神経場のパターン力学
     東京大学工学部計数工学科 甘利俊一

  • 1.はじめに
    • 脳は神経回路網よりなる複雑で巨大なシステムである。脳の研究は人間の情報処理様式の解明を目指して、生理学、心理学、工学などの多方面から活発に行われているが、未だに情報処理の基本様式が理解できたとはいい難い。生理学研究の進歩によって、神経細胞そのものを直接に調べることができ、神経細胞個々の動作は比較的よくわかるようになった。しかしこの方法で巨大な回路網の動作を探ることは容易でない。心理学的研究は、脳の入出力情報の関係を現象的に明らかにするが、これを神経回路網の動作と結びつけるにはまだ大きな飛躍が必要である。
    • これに対して「構成的な研究」といわれるものは、生理学や心理学が明らかにした事実を素材として神経回路網のモデルをまずかなり自由に構成してみる。このモデルの解析を通じて、神経回路網でどのような動作が可能かを研究する。このようにして得られた動作が現実の神経回路網で実現されているかどうかを調べるのは、その次の課題である。ここでは、このような構成的な方法のなかでも、神経回路網モデルの動作を数学的に解析して一つの理論体系を作ることを目指している数理的な研究について解説してみたい。
    • 外界の情報構造に応じて自己の動作(構造)を適応的に変えることのできる神経回路網は、他の情報処理システムに比べて、この自己組織能力、学習能力の点できわだって優れている。これは、神経細胞間の結合のシナプス効率を変えることで達成できると考えられており、これを実証することが最近の生理学研究の中心課題の一つになっている。一方、神経回路網の中では、情報はパターンとして保持され、興奮パターンの力学過程を通じて情報処理が行われている。これに関連して反応拡散系のパターン形成が研究されているが、神経系とくに神経場での興奮パターン形成の力学もこれに劣らず興味深いものといえよう。本稿では、神経回路網の自己組織過程を中心とし、それに関連したパターン形成の力学にもふれながら、数理的な手法とその成果とを述べるつもりである。
    • はじめに第2節で神経細胞の学習および自己組織に関する理論モデルを示す。これにより、パーセプトロンなどの学習識別系や連想記憶に関連した相関学習のみならず、外界の情報に応じてそれを処理する神経細胞を自分の内部に自動的に形成する情報処理細胞の自己形成の論理が説明できることを示す。次の第3節では、神経回路網の興奮力学と、回路網の構造的変化を記述する自己組織力学とを連立させた系の数学的取扱かいを示す。第4節では神経場のパターン力学にふれ、神経場トポグラフィの形成過程に前節の方法を応用する。
    • なお、ここでの方法は文献1)*1を発展させたものであり、神経場の自己組織については2)*2, 3)*3に基づいている。


神経回路網の自己組織と神経場のパターン力学――甘利俊一著――生物物理 Vol. 21 No.4 (1981)」より

上の記述からすると、今までここで見てきた

「構成的な研究」になるようです。私の興味はどうもこの構成的な研究にあったようです。
第2節以降に具体的な記述が始まりますが、これはは次回以降に順次アップしていきます。そして自分のメモも一緒に書いていきたいと思います。

*1:甘利俊一(1978)神経回路網の数理、産業図書、東京

*2:Amari, S. (1980) Bull. Macth. Biol., 42, 3390364.

*3:Takeuchi, A., Amari, S. (1979) Biol. Cybern., 35, 63-72.