神経回路網の自己組織と神経場のパターン力学 甘利俊一著(2)

  • 2.神経細胞の自己組織
    • 2.1 学習神経細胞数理モデル
      • 脳の構成要素である神経細胞は、図1に示すように、多数の信号を入力として受け取り、それを処理して出力を出す情報処理素子である。
      • 今、n本の入力を考え、それぞれの入力信号の強さをx_1, x_2, …, x_nとしよう。また、この素子の出力信号の強さをzとする。入出力信号はパルスの形で神経線維を伝わるから、x_izはパルスの有無に対応して1か0のどちらかの値を取る。しかし、よりマクロな時間尺度で考えると、x_izは単位時間当たりのパルスの個数、すなわちパルス頻度を表すアナログ量であると考えることができる。
      • 神経細胞に時間tでの状態量u(t)を導入しよう。これは、細胞の膜内外の電位差を短時間平均したものと考えてよい。u(t)は入力信号の強さに応じて増減すると共に、一定の割合で静止電位-hに向かって減衰する傾向がある。入力信号x_iuに及ぼす影響は各i毎に異なってよく、単位の強さのx_iuに及ぼす影響をs_iとし、s_iを入力x_iに対するシナプス荷重と呼ぶ。n本の入力の効果は重ねあわされるものとすると、u(t)の変化を記述する方程式
        • \tau'\dot{u}=-u(t)+\Bigsum_{i=1}^ns_ix_i-h・・・・(1)
      • が得られる。ここに\tau'は時定数、・はd/dtである。


神経回路網の自己組織と神経場のパターン力学――甘利俊一著――生物物理 Vol. 21 No.4 (1981)」より


いきなり

  • \tau'\dot{u}=-u(t)+\Bigsum_{i=1}^ns_ix_i-h・・・・(1)

が登場して面食らうのですが、「理工学系からの脳科学入門」

によれば、これは甘利‐ホップフィールドモデルと呼ばれるそうです。残念ながらこの本にもこの方程式が観測された実際のニューロンの性質に合致しているかは記述されていません。ここでは、天下り的にこの方程式を受け入れることにします。この式は

  • u_0=\Bigsum_{i=1}^ns_ix_i-h・・・・(a1)

とおけば、

  • \tau'\dot{u}=-u(t)+u_0・・・・(a2)

となります。私は自分になれた形でこれを以下のように書きます。

  • \tau'\frac{du(t)}{dt}=-u(t)+u_0・・・・(a3)

もしu_0が定数であるとすれば

  • \tau'\frac{du(t)}{dt}=-[u(t)-u_0]
  • \tau'\frac{d[u(t)-u_0]}{dt}=-[u(t)-u_0]
  • \tau'\frac{d[u(t)-u_0]}{u(t)-u_0}=-dt
  • \tau'\Bigint\frac{d[u(t)-u_0]}{u(t)-u_0}=-\Bigint{dt}
  • \tau'\log[u(t)-u_0]=-t+C
  • \log[u(t)-u_0]=\frac{-t+C}{\tau'}
  • u(t)-u_0=\exp\left(\frac{-t+C}{\tau'}\right)・・・・(a4)

となります。ただしC積分定数です。ここで

  • A=\exp\left(\frac{c}{\tau'}\right)・・・・(a5)

とおけば

  • u(t)-u_0=A\exp\left(-\frac{t}{\tau'}\right)
  • u(t)=A\exp\left(-\frac{t}{\tau'}\right)+u_0・・・・(a6)

この式から、t\rightar\inftyu(t)\rightar{u_0}になることが分かります。しかし、上ではu_0は定数(時間が経過しても変化しない)としました。しかし、これは真実ではありません。x_iニューロンへの入力ですから時間とともに変化します。そしてs_iは(上の論文ではシナプス荷重と呼んでいます。私は今までのブログのエントリーでシナプス係数と呼んでいました)今のところ言及はありませんが、これも時間によって変化します。これらのことを考えるとu_0も時間の関数になることが分かります。u_0が時間の経過とともに変化するのであれば、式(1)を解くことはもっと困難になります。
さて、入力がないときには、つまりどのiについてもx_i=0の時には式(a1)から

  • u_0=-h・・・・(a7)

になります。このことは上の記述「u(t)は・・・・・一定の割合で静止電位-hに向かって減衰する傾向がある。」に合致しています。