神経回路網の自己組織と神経場のパターン力学 甘利俊一著(5)

      • この法則を一般化して、シナプス荷重s_iは学習時にはゆっくりと減衰すると共に、入力信号x_iと学習信号rとの積に比例して増大する、という仮説を考えよう。式で書くと、\taucを定数として
        • \tau\dot{s}_i=-s_i+crx_i・・・・(6)
      • である。神経細胞が発火した時に学習信号rが1、発火しないときに0、すなわち階段関数を用いてr=1(u)とすると、これはHebbの仮説に一致する。


神経回路網の自己組織と神経場のパターン力学――甘利俊一著――生物物理 Vol. 21 No.4 (1981)」より

ここで学習信号というものが登場しましたが、これは教師信号ではありません。このあと教師信号は別に登場します。では学習信号とは何なのかいまひとつはっきりしないのですが、なるべく包括的な理論を作ろうとしてこういう抽象的な概念を導入したようです。
次に上の記述で「・・・・これはHebbの仮説に一致する」というくだりですが、これは「階段関数を用いてr=1(u)とすると」というよりもr=zとする、と書くべきでしょう。そしてこれが言えるためにはf(u)=1(u)でなければならないと思います。
式(6)は、標準デルタ則に相当する式です。標準デルタ則では\Delta{s}を規定していて離散的でしたが、この式ではそれがdsになっていて時間tの経過による連続的な変化を計算出来る式になっています。

      • 学習信号rは、一般に入力信号\under{x}シナプス荷重\under{s}およびその時の細胞の状態u(これは(5)により\under{s}\under{x}とで表わせる)に依存して決まるであろう。さらに、入力信号ベクトル\under{x}以外に特別な教師信号yが外部から来る場合には、このyにも依存する。したがって
        • r=(\under{s},\under{x},y)
      • と書ける。教師信号yのある場合の学習を教師付学習と呼ぶ。入力信号\under{x}に対して教師信号が指定する出力信号を出すように入出力関係を調整していく場合、入力信号の分類を行い分類結果の正誤を教師信号とする場合、連想すべき信号を講師として行う連想記憶などが、教師付学習の例である。これに対して、外部から与えられる多数の入力信号に対してその一つ一つを検出し処理する信号検出処理細胞を自動的に形成する問題、特徴検出細胞の自動的な形成、さらに外界の位相情報に合わせた神経場の形成などは、教師信号なしに外界の情報信号だけをもとに行われる教師なし学習の例である。学習と自己組織とははっきりと区別して使われているわけではないが、学習は教師ありの場合に、自己組織は教師なしの場合に用いられることが多い。
      • 学習信号rは、次に述べるようないろいろなものが考えられる。神経細胞には多くの種類があるから、実際にもいろいろな種類の学習が神経系の中で行われているものと考えられる。


神経回路網の自己組織と神経場のパターン力学――甘利俊一著――生物物理 Vol. 21 No.4 (1981)」より

上の引用の1行目「これは(5)により・・・」のところ、式(5)は

  • z=f(u)=f(\under{s}\cdot\under{x}-h)・・・・(5)

でした。これでも間違いではありませんがより適切には「これは(4)により」とすべきでしょう。式(4)は

  • u=\under{s}\cdot\under{x}-h・・・・(4)

でした。
上の引用の部分で重要な記述は「学習と自己組織とははっきりと区別して使われているわけではないが、学習は教師ありの場合に、自己組織は教師なしの場合に用いられることが多い。」というところだと思います。