ニューラル・コーディング(6)

3.3 集団コーディング

集団コーディングは多くのニューロンの活動を合わせたものを用いて刺激を表現する方法である。集団コーディングでは、個々のニューロンは入力のある集合に対する応答の分布を持ち、多くのニューロンの応答は入力に関するある値を決めるために組み合わされる。
理論的観点からは、集団コーディングは神経科学において数学的によく定式化されたいくつかの問題の一つである。それはニューラル・コーディングの本質的特徴を把握しており、さらに、理論的解析に充分なくらい単純である。実験的研究は、このコーディングの枠組みが脳の感覚と運動の領域において広く用いられていることを明らかにしてきた。例えば、視覚野内側側頭葉(MT)において、ニューロンは移動方向に向わされる。特定の方向に移動する物体に対する応答において、MT内の多くのニューロンは、集団に渡って雑音の影響を受けた釣鐘型の活動パターンで発火する。物体の移動方向は集団活動から読み取られ、それは単一ニューロンの信号に存在するゆらぎの影響を受けない。第一次運動野における古典的な例では、Apostolos Georgopoulos と同僚は猿がジョイスティックを輝点の方へ動かすように訓練した。彼らは、1つのニューロンが複数の目標方向で発火することを見つけた。しかしそれはある方向については最も早く発火し、目標がそのニューロンの「好む」方向にどれほど近いかに依存してよりゆっくり発火した。
もし個々のニューロンがその好む方向の動きを表現しているならば、そして全てのニューロンのベクトル和が計算されるならば(個々のニューロンは発火レートと好む方向を持つ)、その合計は動きの方向を示すことを、Kenneth Johnsonが最初に導き出した。このようにしてニューロンの集団は動きの信号を符号化する。この特定の集団コードは集団ベクトル・コーディングとして参照される。この特定の研究は運動生理学者の分野をEvartsの「上位運動ニューロン」グループ、それは運動皮質ニューロンは単一の筋肉の制御に寄与しているという仮説に従っているのであるが、と、皮質における運動方向の表現を研究するGeorgopoulosグループに分けた。
Murray SachsとEric Youngに率いられたジョーンズホプキンス大学ニューラル符号化研究所は、聴覚刺激のニューロンによる表現について平均局在同期応答(ALSR: Averaged-Localized-Synchronized-Response)と名付けられた場所時間集団コードを開発した。これは個々の神経線維聴覚神経内部の位相固定同様、聴覚神経内部の場所またはチューニングを利用する。最初のALSR表現は定常母音であった。複雑で非定常の刺激におけるピッチとフォルマント周波数のALSR表現は、有声ピッチと子音-母音音節内のフォルマント表現について示された。このような表現の利点は、ピッチやフォルマントの遷移プロファイルのような大域的な特徴を神経全体の渡る大域的特徴としてレートと場所のコーディングによって同時に表現出来ることである。
集団コーディングには、ニューロンの変動による不確かさの削減や多くの異なる刺激特性を同時に表現する能力を含む、他の多くの利点も同様にある。集団コーディングはまたレート・コーディングよりずっと速く、刺激条件の変化をほぼ即時に反映することが出来る。そのような集団内の個々のニューロンは通常異なってはいるが重なっている選択性を持つので、必ずしも全てではなくても多くのニューロンが、与えられた刺激に応答する。
通常、符号化関数はピーク値をもち、知覚の値がそのピークの値に近ければニューロンの活動が最大になり、ピーク値への距離が大きい値についてはそれに応じて活動が減少する。
その結果、実際に知覚した値をニューロンの集合内の活動のパターン全体から再構築することが出来ることになる。ベクトル・コーディングは単純な平均化の例である。そのような再構築を実行するためのより洗練された数学的技法は、ニューロンの応答の多変量分布に基づく最大尤度の方法である。これらのモデルは独立や二次相関や、高次最大エントロピーモデルや連辞のような、さらにより詳細な依存性を仮定することが出来る。

3.3.1 相関コーディング

ニューロン発火の相関コーディング・モデルは、スパイク列内の活動電位すなわち「スパイク」はスパイクの単純なタイミングに加えてさらに情報を運んでいると主張する。スパイク列間の相関は、2つのスパイク列に存在する刺激の特徴に関する総相互情報を減少させることしか出来ず、けっして増加させないことを、初期の研究は示唆していた。しかしのちに、これは正しくないことが示された。もし雑音の相関と信号の相関が反対の符号を持つならば相関構造は情報内容を増加させることが出来る。相関はニューロンの2つのペアの平均発火レートに存在しない情報をも運ぶことが出来る。この良い例はペントバルビタールで麻酔されたマーモットの聴覚野に存在し、そこでは純音はニューロンのペアの相関するスパイクの数を増加させるが、平均発火レートを増加させない。

3.3.2 独立スパイク・コーディング

ニューロン発火の独立スパイク・コーディング・モデルは、個々の活動電位すなわち「スパイク」がスパイク列内の他の全てのスパイクと独立していると主張する。

3.3.3 位置コーディング

通常の集団コードは、その平均が刺激の強さによって線形に変化するようなガウス分布同調曲線を持つニューロンを含み、それはニューロンが平均に近い刺激に(1秒あたりのスパイク数の観点で)最も強く応答することを意味する。実際の強さは、最も大きい応答をするニューロンの平均に対応する刺激レベルとして取り戻すことが出来るであろう。しかし、ニューロンの応答に固有の雑音は、最大尤度推定関数がより正確であることを意味する。

典型的な位置コーディングのグラフ



ニューロンの応答は雑音が多くて信頼性を欠く。


このタイプのコードは、関節の位置や目の位置、色、音の周波数のような連続変数を符号化するのに用いられる。どの個々のニューロンも雑音が多くて、レート・コーディングを用いて変数を忠実に符号化することは出来ないが、集団全体はより大きな忠実性と正確性を保証する。単一モードの、つまりピークが1つの、同調曲線の集団については、正確さは通常、ニューロンの数に線形に増加する。よって正確さを半分にすれば、半分の数のニューロンしか必要でない。対照的に、空間を表現するグリッド細胞におけるように、同調曲線が複数のピークを持つ場合、集団の正確さはニューロンの数について指数的に増加する。これは同じ正確さに必要なニューロンの数を大きく減少させる。