キメラ 満洲国の肖像

キメラ―満洲国の肖像 (中公新書)

キメラ―満洲国の肖像 (中公新書)

題名の「キメラ」はギリシア神話に出てくる怪物キマイラのことで、著者はF・ノイマンナチス第三帝国について「ビヘモス」という名の本を著したことに倣って満洲国をキメラにたとえたとのことです。これを読んだ時、やっと自分が納得できる満洲国のイメージを得ることが出来た、と思いました。そして著者の年齢をみた時に1951年生まれ、つまり、自分とあまり違わない年代の人であることを知って、うれしくなりました。というのはこの本を買ったのが1993年で、そのころやっと自分の年代の人々が本を出すようになったからです。ようやく自分の年代にあった満洲国の理解が出来る、という思いをうれしく感じたのでした。そうはいえ、確かに私も戦争の時代に生を受けていないので、このことに対して絶対的な感触を持てない世代に属するわけですが。しかし、自分の持っているいろいろな歴史上の知識そして人間の傾向に関する知識との整合性という意味では、この本が一番整合性のあるイメージを提示したと思っています。
政治とはなんと複雑で難しいものでしょうか。ここには主役になる者はついに一人も登場しなかったのでした。

満洲国は血と恐怖を代償としながらも、さまざまな人々の多種多様な夢を揺籃として育つはずであった。しかし、打算は夢を駆逐し、利害は希望を打ち砕いていく。建国理念はただ現実を糊塗し、隠蔽するだけの機能しか持ちえなくなる。人々は満洲国にかけた夢が幻想であったことにいやおうなく気づかされ、それがそもそも自分の掌中になどなかったことをしたたかに思い知らされることとなった。

この本の中で印象に残った人物は、橘撲(たちばな しらき)と鄭孝胥です。