満州帝国(Ⅰ) 児島襄

満州帝国 (1) (文春文庫 (141‐13))

満州帝国 (1) (文春文庫 (141‐13))

これはよく読んだ本です。全3巻で、この第1巻では、満州事変前後の短い期間を扱っています。最初の章(章には番号が振られていない)「無主の地」の冒頭は1930年(昭和5年)11月9日であり、第1巻の最後の章「溥儀の天津脱出」の章末は1931年(昭和6年)11月18日です。
当時の日本人から見た満州とは何だったのか、満州事変とは何だったのか、を把握するにはよい本で、情報源として使用するにはかなり役立つと思います。しかし、中国の民衆の側から見た情報が少ないとも感じました。
 この本を読んで、当時、満州事変以前に日本がすでに満州でかなりの権益を得ていたことに驚きました。そしてそれが国民党による中国統一、つまり北伐の進展と、中国側のナショナリズムの高まりによって、だんだん押され気味になり、日本側が危機感を強めていたところに、満州事変への日本側の民衆の共感があったように思いました。けっして関東軍(満鉄を守る日本軍)だけが突出して行動していたわけではなさそうです。
満州事変は1931年9月18日午後10時20分から開始されたのですが、翌19日早朝には在満州日本人が満鉄の駅プラットフォームに集まり関東軍に声援を送っていたそうです。

 おそらく、鉄道駅が伝える関東軍出撃のニュースに答えて見送るのであろうが、秋冷のプラットフォームには、防寒服の男子邦人のほかに子供をおぶった婦人の姿も見え、いずれも日の丸の小旗をふり、声を限りにバンザイを連呼していた。
 有難うッ、頼みますッ−−と、列車を追ってホームを走る姿が、どの駅でもみられた。

一度、この本を元に満州事変における主な事件を時間順に並べて年表のようにしたものを作ったことがありますが、それを見たとき関東軍の手際のよさがよく分かりました。