装置処理時間が一定ならばトラップされたロットはない(2)

装置処理時間が一定ならばトラップされたロットはない(1)」のつづきです。

  • G/D/mのロードポートあり、搬送時間なし、のモデルではトラップされたロットは存在しない

ということを証明しようと、あれこれ考えているのですが、そのうちに、

  • 共用バッファにまったくロットがなかった場合に、到着したロットが装置を選択するルールである

(1)到着したロットを、ステーションにある専用バッファ内で最も待ちロット数の少ないバッファに対応する装置に割り当てる。
(2)もし、最も待ちロット数の少ない装置が複数台存在する場合は、最新の処理終了時刻が最も古い装置を選択する。

(これを「ルール1」と呼ぶことにします。)が、以下のルール

  • ルール2
    • 到着したロットを、ステーションにある専用バッファ内でその専用バッファの最後尾のロットの処理終了時刻が最も早いような専用バッファに対応する装置を選ぶ。

と同等である、ということが証明できれば、その後の証明は比較的簡単なことが分かってきました。
そこで、上記のルール1はルール2と同等である、ということがすでに証明された、と仮定して、その後の証明を記します。

  • 証明の前に、ルール2で、「最後尾のロットの処理終了時刻が最も早いような」と言っていることに注意して下さい。これは、そのロットの処理終了時刻を予め予測出来る、ということを前提にした言い方です。なぜそれが出来るかといえば、そのロットの前に並んでいるロットの各々の処理時間も、そのロット自身の処理時間も一定で、予め分かっていて、誤差の発生などあり得ない(G/D/mの「D」)、というふうに仮定しているからです。
  • もし、まったく待ちロットのない専用バッファがある場合は、最後尾のロットの終了時刻は現在時間、とみなすことにします。
  • もし、まったく待ちロットのない専用バッファが複数ある場合には、どれを選んでも結果が変わらないので、予め決められた順序に従って専用バッファを選ぶ、ということにします。

(証明)

  • 共用バッファの先頭に並んでいたロットが、専用バッファに移る際に装置を選択する場合も、どれが1つ空きの出来た専用バッファを(よってそれに対応する装置を)選ぶので、これも、「最後尾のロットの処理終了時刻が最も早いような専用バッファに対応する装置を選ぶ」とみなすことが出来る。
  • よって、共用バッファから専用バッファに移る際と、共用バッファが空でいきなり専用バッファを選ぶ際の2つを一緒に考察する。
  • まず、「『トラップされている』ということ」で示した図2
  • のタイプのトラップの有無について
    • あるロット(ロットa)がある装置(装置1)の専用バッファで待っている間に、別の装置(装置2)が空いたと仮定する。この装置2が空いた瞬間を時刻t_1とする。
    • 時刻t_1の時に装置1の専用バッファで処理中のロットをロットbとし、装置2で処理の終わったロットをロットcとする。ロットbの処理終了時刻をt_e(b)、ロットcの処理終了時刻をt_e(c)とする。
    • 時刻t_1では既にロットcの処理が終了しているのにロットbはまだ処理中なので
      • t_e(b)>t_e(c)  (1)
    • ロットaが装置1の専用バッファを選択した時刻をt_2とする。
    • t_2の時、装置2の専用バッファの最後尾のロットはロットcである。一方、装置1の専用バッファの最後尾はロットbである可能性もあるが、それよりあとに専用バッファに入ったロットの可能性もある。t_2の時の装置1の最後尾のロット終了時刻をt_e(eq1)で表すと、最後尾がロットbであるならばt_e(eq1)=t_e(b)、そうでなければt_e(eq1)>t_e(b)。よっていずれにしても
      • t_e(eq1){\ge}t_e(b)  (2)
    • 一方、t_2の時の装置2の専用バッファの最後尾のロットはロットcなので、t_2の時の装置1の最後尾のロット終了時刻をt_e(eq2)で表すと、
      • t_e(eq2)=t_e(c)  (3)
    • 式(1)(2)(3)から
      • t_e(eq1)>t_e(eq2)
    • よって時刻t_2の時、装置2の専用バッファの最後尾のロットの処理終了時刻のほうが、装置1の専用バッファの最後尾のロットの処理終了時刻より早いので、ロットaが装置1を選択するのは矛盾している。
    • よって、最初の仮定が間違っている。
    • よって、あるロットがある装置の専用バッファで待っている間に、別の装置が空くことはない。
    • よって「『トラップされている』ということ」で示した図2のタイプのトラップされたロットはない。
  • 次に、「『トラップされている』ということ」で示した図2a
  • のタイプのトラップの有無について
    • 最後尾のロットの処理終了時刻が最も早いような専用バッファに、次のロットが並ぶので、そのバッファの最後尾のロットの処理終了時刻が、装置の処理時間分だけ加算される。
    • よって、当該ステーション内の全ての専用バッファの最後尾のロットの処理終了時刻のうちの、最小値をT_{min}とすると、T_{min}は次のロットが専用バッファを選択して並ぶたびに増加するか、少なくとも等しい。
      • 等しい場合というのは、そのロットが専用バッファを選択する前に、最後尾のロットの処理終了時刻が最小である(つまりT_{min}である)専用バッファが複数存在する場合である。
    • あるロットが専用バッファを選択する直前のT_{min}の値がT_1であったとすると、そのロットの専用バッファへの移動によってT_{min}の値はT_2(ただしT_2{\ge}T_1)になるので、次に専用バッファを選択するロットは、絶対、前のロットの処理開始時刻より前に処理を開始することはない。
    • ロットが専用バッファを選択する順序は、ロットが専用バッファに並んでいる場合も、システムに到着していきなり専用バッファを選択する場合も、ロットが到着する順序と同じなので、ロットが到着する順序が後のロットが、前のロットより先に処理を開始することはない。
    • よって「『トラップされている』ということ」で示した図2aのタイプのトラップされたロットはない。
  • よって、G/D/mのロードポートあり、搬送時間なし、のモデルではトラップされたロットは存在しない

(証明終わり)
では、これを定理の形に書いておきます。