物語 イタリアの歴史

物語イタリアの歴史―解体から統一まで (中公新書)

物語イタリアの歴史―解体から統一まで (中公新書)

第一話は、「皇女ガラ・プラディキアの物語」で西ローマ帝国末期、ゲルマン民族大移動の頃の、ある皇女の物語。
第二話は、「女伯マティルデの物語」で、もう西ローマ帝国はとうに滅び、カール大帝による西ローマ帝国の復活の遺産もなくなり、神聖ローマ帝国が成立したあとの話で、いわゆる「カノッサの屈辱」の話です。
第三話は、 「聖者フランチェスコの物語」
第四話は、「皇帝フェデリーコの物語」で、これは神聖ローマ帝国皇帝フリードリヒ2世の話です。

この皇帝はイタリアで生まれ育ち、イタリア語で話し試作し、イタリアを愛し、その肉体に流れる血はゲルマン系であっても、心はイタリア人であったのだから、ここでは彼をフェデリーコと、イタリア読みで呼ぶことにしよう。

と著者は書きます。
第五話は、「作家ボッカチオの物語」
第六話は、「銀行家コジモ・デ・メディチの物語」
第七話は、「彫刻家ミケランジェロの物語」
第八話は、「国王ヴィットリオ・アメデーオの物語」 これはトリノの王様で、イタリア王室の先祖であるサヴォイア家の話です。
第九話は、「司書カサノーヴァの物語」
第十話は、「作曲家ヴェルディの物語」です。でも本当の主題はイタリア統一です。
それぞれの物語には登場人物にゆかりのあるイタリアの町があります。これは、物語 イタリアの歴史Ⅱの「ローマ、聖天使城への長い道のり−−あとがきにかえて」に書かれている話です。(著者の藤沢氏が亡くなられたので、この「ローマ、聖天使城への長い道のり−−あとがきにかえて」は武谷なおみ氏が書かれている。)

「『物語 イタリアの歴史』の隠し味がなにか分かりますか?」と出版後の藤沢さんはくつろいだ様子で、いつも以上に饒舌だった。「あとがきに書いてないから、気づいてもらえないのかなあ。どの話にもひとつずつ違う都市がちりばめられているんですよ。イタリアめぐりの旅も楽しめる仕掛けです」と、得意顔で言われる。

武谷なおみ氏によれば、
「皇女ガラ・プラディキアの物語」はラヴェンナ
「女伯マティルデの物語」はトスカーナ(それでは都市名ではないが)、
「聖者フランチェスコの物語」はアッシージ、
「皇帝フェデリーコの物語」はシチリア島パレルモ
「作家ボッカチオの物語」はナポリ
「銀行家コジモ・デ・メディチの物語」はフィレンツェ
「彫刻家ミケランジェロの物語」はローマ、
「国王ヴィットリオ・アメデーオの物語」はトリーノ、
「司書カサノーヴァの物語」はヴェネツィア
「作曲家ヴェルディの物語」はミラノ、だそうです。
ローマ帝国理念の継承に興味のある私は、第一話、第二話、第四話が気に入りました。
特に、第四話では、フェデリーコの愛息ハインリッヒが反逆し、捕らえられ、そしてハインリッヒは自殺します。その知らせを聞いた際のフェデリーコの姿が印象的です。

皇帝フェデリーコの様子は常と変らぬように見えたが、彼の心は血を流していた。身近の者にこう心中を洩らしたという。「外敵に一度たりとも敗れたことのない帝王が、身内の問題に苦しんで打ちひしがれていると知れば、世の心猛き父親たちはさぞ驚くことだろう。だが、王者の心がどれほど不撓であれ、その感情はやはり自然の法則に従うものである。子の罪悪に憤りつつもその墓の前で涙を流す親は、昔も今も絶えることはあるまい。」