物語 古代ギリシア人の歴史

物語 古代ギリシア人の歴史 (光文社新書)

物語 古代ギリシア人の歴史 (光文社新書)

「物語 ****の歴史」というシリーズはもともと中公新書のシリーズですが、光文社新書がパクッた模様です。
中公新書の「物語 ****の歴史」も著者によってスタイルがバラバラで、このシリーズの特徴と言えるものがありません。読んでおもしろいと思うものも思わないものもあります。思うものは「物語 イタリアの歴史」「物語 イタリアの歴史Ⅱ」です。これらは1章1章が本当に物語になっていて、読んでて引き込まれます。さて、この本ではどうでしょうか?
この本では1章1章が独立していて、古代ギリシア人が現代の日本人に直接、語りかける形式をとっています。その点では「物語」なのですが、少し不満に思うのは、登場して語りかける古代ギリシア人の語り口がどれも同じように感じる点です。これはちょっと失敗しているな、と感じてしまいます。そうは言いながら、小説家ではなく考古学者である著者にそれを求めるのは酷かな、とも思います。ひとつには登場人物が死者である、ということが影響しているのだと思います。彼らの人生の全てはすでに確定してしまい、全員何か達観している様子があるのです。記述内容が考証に基づいているだけに私はこの点がおしいです。
さて、各章のタイトルとそこでの語り手(ほとんどが実在した古代ギリシア人)は以下のようです。

  • 第1章 ナイルを遡ったギリシア人(ロドス人の傭兵テレフォスの物語)
    • 前7〜6世紀。歴史的有名人ではありません。
  • 第2章 民主政治をつくるために抜かれた剣(「ペプロスの少女」の物語)
    • 前6世紀。アテネアクロポリス博物館に展示されている「ペプロスの少女像」のモデル。物語は僭主ヒッピアスの弟ヒッパルコスが、ハルモディオスとアリストゲイトンに暗殺された事件に関係しています。主人公の少女はアリストゲイトンの娘です。
  • 第3章 オリンピックでの優勝をめざして(ボクシング選手テアゲネスの物語)
    • 前5世紀。歴史的有名人ではありません。タソス島出身。2回のオリンピックで優勝する。
  • 第4章 若者はなぜアテネ人殺害犯にされたのか(ミュティレネ人エウクシテオスの物語)
    • 前5世紀。レスボス島在住のアテネ人ヘロデスを殺害したとの疑いで訴えられたレスボス島ミュティレネの市民。裁判では無罪になる。なお、著者は本当は犯人であったのではないかと疑っている。
  • 第5章 ソクラテス裁判の日(英霊の父となったアテネ市民の物語)
    • 前5〜4世紀。主人公は創作された人物です。
  • 第6章 「姦通事件」の二つの顔(エウフィレトスとその妻の物語)
    • 前4世紀。ある裁判をめぐって夫(エウフィレトス)と妻がそれぞれ自分の正当性を主張します。二人とも歴史的有名人ではありません。
  • 第7章 ローマへのはるかな道(ギりシア出身の歴史家ポリュビオスの物語)
    • 前2世紀。有名人です。日本では有名でないフィロポイメン将軍の話が登場します。

文句が多くなってしまいましたが、読むといろいろ発見がある本です。