法則(変動の集約)

  • 法則(変動の集約):
    • 変動の発生源を複数集めることによって、変動の悪影響を小さくすることが出来る。

本「Factory Physics」ではこれを「変動のpooling」と呼んでいます。この「pooling」をどう翻訳するか迷いましたが結局「集約」と訳すことにしました。本「Factory Physics」がこれを法則としてピックアップしなかった理由が私にはよく分かりません。これは応用範囲の広い法則です。

  • 一番単純な応用は、よく故障する装置を何台も並べて1つのステーションにすることによって、1台の装置が持つスループットの変動を目立たなくさせることです。

ゴールドラットの「ザ・ゴール2」でも(特に「法則」と呼んでいるわけではありませんが)この法則の応用と考えられる事例が述べられています。

以下の引用箇所では化粧品の販売店への流通が問題になっています。従来、各地方の倉庫にいっぱい在庫を持たせていたのを、製造工場側に在庫を持たせるようにすることで全体の在庫量を減らした、という話です。

ボブが答えた。「私のところでは、全国の何千もの販売店に対し約650種類の商品を提供している。以前は約3ヶ月分の在庫を用意していたんだが、それでも十分ではなかった。販売店がうちに注文を入れる時は、1アイテムだけでなく何種類ものアイテムを一度に注文してくるけれど、だいたいいつも在庫を切らしていて足りないアイテムがいくつかあってね。全アイテムをまとめて出荷できるのは、注文全体の30%ぐらいだけだった。不足したアイテムは後から出荷するんだが、そのためにどれだけコストがかかるか想像してみてくれよ。
 でも新しい(流通)システムを導入して、いまでは販売店からの注文に1日以内で対応できるし、注文全体の90%以上については、注文されたアイテム全部を一度で出荷できるようになった。在庫は急激に減っていて、いずれ6週間分程度の在庫で落ち着くと思う」
「どうやって、そんな奇跡を起こしたの」ステーシーが驚いた顔をして訊ねた。
「簡単なことだよ。以前は在庫を全部、各地の倉庫においておいたんだ」
(中略)
「それをどう変えたのですか」
「在庫を作った工場にそのまま置いておくことにしたんだ。各地の倉庫には、20日以内に販売が予想されるものだけを置く。各地の倉庫へは3日おきに在庫を補充するから、それで十分なんだ」
「ちっともわからないんだけど」ステーシーは当惑顔だ。「どうしてそれで、在庫が減るのに、注文が納期内に出荷できるようになるの。私には関係がよくわからないわ」
「簡単なことだよ」今度は私が答えた。「統計だよ。一軒一軒の販売店が各アイテムをどれだけ販売するかは、おおざっぱにしかわからない。100個売れたかと思ったら、次の日はゼロのこともある。我々の予想は平均値を基準にしているんだよ」
「ええ、それならわかります」
「それじゃ、1軒の販売店の販売予想と100軒分の販売店の販売予想を合計した数字のどちらのほうが正確かな」私は訊ねた。
「100軒分合計したほうです」ステーシーがすぐに答えた。
「もちろん、そのとおりだ。数が多ければ多いほど、予想精度は増す。数学的な理論で言えば、販売店の数が多ければ多いほど、予想値の制度は合計する販売店平方根に比例して増す。つまり、在庫の多くを25ある各地の倉庫から工場に移すことで、予想精度は5倍増すことになる」
「副社長、ずいぶんと統計学に詳しいんですね」ボブが言った

各販売店の販売予想を集約することで(つまり工場側で製品在庫を持たせることで)まさに変動の悪影響を小さくしています。
この法則(変動の集約)の根拠となっているのは「同一の確率分布を持つ独立な複数の確率変数の和の変動係数 」で証明を示した

  • 同一の確率分布を持つ独立な確率変数をk個足した変数の変動係数は、もとの確率変数の変動係数の1/sqrt{k}になる

というものです。