フェニックスについて

私の日常に現れた古代エジプト神話で少し述べましたが、フェニックスの伝承の元もとの発祥の地はエジプトです。しかし、これをフェニックスに近い名前で呼んだのは前5世紀のギリシアヘロドトスがその著書「歴史」においてだと思います。そこでは意外なことにフェニックスはまだ不死鳥ではありません。その記述をご紹介したいと思います。エジプトの聖なる動物について述べた箇所です。

右のほかにもう一つ、ポイニクス(フェニックス)という名の聖鳥がある。私はその姿を絵でしか見たことがない。というのもこれはめったに現われぬ鳥で、ヘリウポリスの住民の話では、500年ごとにエジプトに姿を現わすのである。そしてそれは父鳥が死んだ時であるという。絵に描かれているとおりであるとすれば、その大きさや形状は次のとおりである。その羽毛は金色の部分と赤の部分とがあり、その輪郭と大きさは鷺に最もよく似ている。エジプトの伝承によると、私には信じられぬことであるが、この鳥は次のような工夫をこらすという。すなわち父鳥の遺骸を没薬の中に塗り籠め、遙々アラビアからヘリオスの社へ運び、ここに葬る。その運ぶ方法は、先ず没薬で自分が運ぶことのできるほどの重さの卵形のものを作り、それを運ぶ実験をしてみる。念入りの実験を終えると、卵をくり抜いて父鳥の遺骸を入れ、父鳥を入れるためにくり抜いた部分の穴は、別の没薬を加えて塞ぐと、父鳥を入れた重さがちょうどはじめの重さと同じになる。ポイニクスはそのようにして父鳥の遺骸を塗り籠めてエジプトのヘリオス神殿へ運ぶのだという。エジプトの伝承では、この鳥がこのようなことをするということになっているのである。
ヘロドトス歴史」巻2−73 松平千秋訳)