ニーチェ詩集

ニーチェ詩集 (1967年) (世界の詩〈41〉)

ニーチェ詩集 (1967年) (世界の詩〈41〉)

私がニーチェを意識しだしたのは中学の頃で、それから私の人生において何度か意識に上ることがありましたが、どうしても理解することが出来ない、やはり病的なものを感じてしまう、そのような対象です。ごくわずかの詩は好ましく、いくつかの詩は私にとっておぞましく、感じました。彼は「永遠にすこやかに、永遠に病んで」いるように思います。

敵のあいだにあって
        ジプシーの格言による


 むこうには絞首台があり、こちらには綱が、
また刑吏の赤ひげがある。
まわりには群集と毒気のあるまなざし――
おれのような者にはなにも目新しいところはない!
こんなことはたくさんの経験からよく知っているのだ、
そこで笑いながらおまえたちに面と向って叫んでやる、
《むだだぞ、むだだぞ、おれをつるしても!
 死だと? 死ぬことはおれにはできないのだ!》


 乞食ども! おまえたちをそう呼ぶのは、おまえたちが妬むほどに
おれは手に入れたのだ、おまえたちには――とても手のとどかないものを。
なるほどおれは悩む、おれは悩む――、
だがおまえたちは――死ぬのだ、死ぬのだ!
いく百の死の道を歩いたあとでも
おれは息で、生気で、光なのだ――
《むだだぞ、むだだぞ、おれをつるしても!
 死だと? 死ぬことはおれにはできないのだ!》


 こんな歌が遠いスペインで
ブリキのがらがらに合わせてわたしの耳にはいった――
カンテラの光は陰気にまばたいていたが
歌い手は明るく、楽しげで、不敵だった。


わたしが耳をそばだてながらわたしの
最も深い水底の深みに沈みこんでいると、
わたしは眠りこけているのは気がした、
永遠にすこやかに、永遠に病んで。