神聖ローマ帝国

神聖ローマ帝国 (講談社現代新書)

神聖ローマ帝国 (講談社現代新書)

神聖ローマ帝国という実体のハッキリしない「帝国」は、高校生の頃からずっと私の心にひっかかっていました。ところが、それから長い間、神聖ローマ帝国を扱った本を(もちろん日本語の本を)見つけることが出来ないでいました。一時期は、もう自分で書いてしまおうと思ったのですが、歴史学者でもない自分が書けるわけでもなし、ずっと気になる状態が何十年も続いていました。やっと本書に出会ったのが2003年のことです。
私は中世から現代にかけてのヨーロッパの歴史のひとつの動因は帝国主義で、もうひとつは民族主義だと、非常に大雑把なとらえ方ですが、そう思っています。「帝国主義」というのは一般的な意味でいう資本主義の高度に発展した状況としての帝国主義ではなく、古代ローマ帝国の後継者として、1人の皇帝が多民族を統治し、それによって広域的な平和(パクス・ロマーナの再現)をもたらそうとする、そして民族を越えた「普遍的な」権威を目指す政治思想としての帝国主義です。神聖ローマ帝国というのは、その帝国主義を国是とした帝国であったと思っています。しかし中世というのは一方では分裂・混乱の時代です。高邁な主義が何度も現実によって崩されるのが神聖ローマ帝国の歴史のように思えます。
この帝国は、紀元800年のクリスマスにローマ法王の策略によって成立し(カールの戴冠。西ローマ帝国の復活)、1806年8月6日フランツ2世によって解散が宣言された、1000年に渡る、しかし最後の500年はあまり帝国の実体をなしていなかった、不思議な帝国です。この本は神聖ローマ帝国を正面から取り上げた日本では珍しい「神聖ローマ帝国史」の本です。以下が目次です。

序章  神聖ローマ帝国とは何か
第一章 西ローマ帝国の復活
第二章 オットー大帝の即位
第三章 カノッサの屈辱
第四章 バルバロッサ 真の世界帝国を夢見て
第五章 フリードリッヒ二世 「諸侯の利益のための協定」
第六章 「大空位時代」と天下は回り持ち
第七章 金印勅書
第八章 カール五世と幻のハプスブルク世界帝国
第九章 神聖ローマ帝国の死亡診断書
終章  埋葬許可証が出されるまでの百五十年間

私としては日本ではなじみが少ないが重要な興味深い人物、ザクセン朝のオットー3世を取り上げていないことがちょっと残念です。「帝国主義」を重視する私は、ローマに首都を置き、古代ローマの復興を夢見た、そして1002年に若くして死んだ帝王のことをよく知りたいのです。