春の雪(豊饒の海 第一巻)

豊饒の海 第一巻 春の雪 (新潮文庫)

豊饒の海 第一巻 春の雪 (新潮文庫)

豊饒の海四部作は三島の最後の作品であり、第四巻「天人五衰」の最終を新潮社に渡したその日に自決したのでした。あまり小説を読まない私がこの本を持っているのは、三島事件についての謎解きのヒントがこの四部作に隠されていないか、という考えからです。そういう意味で私は三島のよい読者ではありません。


豊饒の海の主題の一つは輪廻転生です。第一巻「春の雪」の主人公の松枝清顕が20歳で死んで第二巻「奔馬」の主人公、飯沼勲に生まれ変わり、飯沼勲も20歳で死んで今度はタイの王女に生まれ変わり、という構造になっています。
第一巻「春の雪」は大正時代の華族社会が舞台になっています。そこでの禁じられた恋の物語です。優雅という点ではなかなかの舞台設定になっています。ただ、登場人物の中に唯識を奉じる法相宗の高位の尼(門跡)がいて、ここから第二巻、第三巻と進むにつれて唯識の哲学が物語を覆うようになっていきます。


今回、目を通したら、そこからついつい読んでしまうような話のうまさがあります。しかし、私はこの小説の主人公の松枝清顕にも、ヒロインの綾倉聡子にもあまり共感していないことに気づきました。「ハドリアヌス帝の回想」ではハドリアヌスに共感することしきりなのですが・・・・。共感するとしたらむしろ、主人公の親友である本多繁邦のほうにでしょう。


本のカバーにはこう書かれています。

維新の功臣を祖父にもつ侯爵家の若き嫡子松枝清顕と、伯爵家の美貌の令嬢綾倉聡子のついに結ばれることのない恋。矜り高い青年が、<禁じられた恋>に生命を賭して求めたものは何であったか?−−大正初期の貴族社会を舞台に、破滅へと運命づけられた悲劇的な愛を優雅絢爛たる筆に描く。現世の営為を越えた混沌に誘われて展開する夢と転生の壮麗な物語『豊饒の海』第一巻