さくらぐるい

桜が咲いているのを見るとビールが飲みたくなるビョーキな私。

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ここんところ、地母神の迷宮をめぐっているようで、変なことがいろいろ起きる。私の大好きだったある桜の木。ゆえあって、その木が花を咲かせているのを見ることは、もうないだろうと思っていたその木が花を咲かせている姿に先日、思いがけず出会えた。6年ぶりだった。枝の張り出し方、花のつけ方、それらに見覚えがある。以前は毎年見ていた桜だった。久しぶりに訪れたこの桜の下で「はなよりほかに知る人もなし」と口ずさんだ。

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自宅に戻って数日後、花を見ながらビールを飲みたかったので、そばの神社の神さんを誘った。ここの神様は川の神と森の神の二柱。私が「さくらの花の神様はやはりコノハナサクヤ姫ですか?」と尋ねたら、「そんな全国区、いうてどないする」と怒られてしまった。日本の神様はそれこそ津々浦々に違っているのでした。さて、神さんと酒を飲む時は、先に神さんのほうに飲んでもらう。つい自分のほうが先に飲むと、あとで悪酔いする。二柱の神様と一緒に桜を見ていた。この神様がた、どちらかというと、ゲゲゲの鬼太郎に出てくる妖怪に近いような感じだけど(また、おこられるかな)。 小さいほうの神さん(森の神)が口を丸くしてドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」のひとふしを、息を吐くようにして歌った。

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以前、よく海外に出張していた時、日本での桜の季節を逃してしまわないか、よく心配した。逆に1年で三回、桜の咲くのを見たこともあった。瀬戸内の島で、自宅のそばで、そしてスコットランドで。スコットランドのは本当は桜ではなかったかもしれないが、どう見ても桜にしか見えなかった。

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神様がたと飲んでいた時に、先ほどの「はなよりほかに知る人もなし」の話をして、ついでに「花ぞ昔の香ににほひける」と口ずさんだら、「それは梅!」とつっこまれてしまった。小さいほうの神さん(森の神)が「それからラタと伊勢神宮の木本祭(このもとさい)をつないでおけよ。書いておけよ。」と突然ご託宣。忘れないようにする。ラタはポリネシア神話に出てくる英雄の一人だ。

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先週は咲いていなかったのに、今、ここに咲いているのを見ていることの不思議。この瞬間の貴重さ。