日本人の魂の原郷 沖縄久高島 比嘉康雄

日本人の魂の原郷 沖縄久高島 (集英社新書)

日本人の魂の原郷 沖縄久高島 (集英社新書)

クバの木が風に揺れている。モノクロの写真。
著者の略歴を見るだけでも、背後にある「もの」を感じさせてしまいます。

比嘉康雄(ひが やすお)
1938年フィリピン生まれ。敗戦後沖縄に引き上げる。嘉手納警察署に10年勤務後、米軍機墜落事故を転機に退職。東京写真専門学校に学ぶかたわら写真活動に入る。『おんな・神・まつり』で太陽賞、『神々の古層』(ニライ社)で小泉八雲賞、風土研究賞、日本写真協会年度賞を受賞。他の著作に『神々の原郷 久高島』(第一書房)『神々の島』(共著・谷川健一 平凡社)など。

この本は著者が1975年から1989年の間、久高島の「ウメーギ」という高位神職西銘(にしめ)シズさんから教えてもらった久高島の祭祀の内容をまとめたものです。読んですぐに感得出来るのは久高島の神職は徹底的に女性上位であることです。それも若い女性ではなく(失礼!)威厳のある中年以上の女性たちによって祭祀が担われている(いた)ことです。


著者が写真家であるだけにこの本は30枚以上の、味のあるモノクロ写真を載せています。目を惹いた写真にはこんなのがあります。例えば「フボー御嶽の中の拝所での祈願」という説明のある写真。白装束白鉢巻の女性が大勢、50人ぐらいいるのだろうか、円座になって座っている。まわりを取り囲むうっそうと茂った木々。白く光っている葉の様子から日の光が強いことが察せられる。しかしモノクロであるために、最初見た時には月明かりの中にこの光景が浮かび上がったかのように見える・・・・
あるいは「カベールでの祈願(<ヒータチ>1976)」という説明のある写真。海に面した岩場に、海を背にして2名のやはり白装束の女性が大きな草の束を振っている。彼女たちに面して、まるで指揮者に向かうオーケストラのように、こちらも岩場の上に立つ、1列5名で6,7列に並んだ同じような衣装の女性たち。彼女たちの頭には草の葉らしきものが巻きつけてある・・・・

・・・久高通いを始めて2年目であったか、西銘シズさんがあらたまって外間(ふかま)ノロさんからの伝言であると前置きして、「あなたのように熱心にシマに通ってくる人はいなかった。久高島の祭祀も私たちの代で終わるかもしれないのでしっかり記録してほしい」といったことがある。つまり正式の祭祀取材の許可が出たのである。その前までは拒否はされなかったが、歓迎されているというふうでもなかった。それから後は、祭祀を見て写真を撮ることは空気のように自然になった。


「あとがき」

風や光の中で神女たちの神歌や振るまいが意味するものを全身で受け止めて立ち会えたことは、幸福な体験であったといわねばならない。


「あとがき」

ここでは写真のことばかり書いてしまいましたが、文章の伝える内容も非常に豊富でしっかり記述されています。私を本土の神道世界の外に立たせてくれ、いろいろなことを見させてくる本です。今日のところは詳しく書くことが出来ませんが、たとえば太陽神が男性であることに興味を覚えました。