サイバネティックス 第2章「群と統計力学」から(2)
「サイバネティックス 第2章「群と統計力学」から(1)」のつづきです。第2章「群と統計力学」の引用を続けます。
”ほとんどいたるところで”の収束を保証するバーコフのエルゴード定理では、がに属する場合、すなわち
(2.20)である場合を扱う。
函数ととは(2.16)および(2.17)におけるように定義される。
するとこの定理の主張するところは、測度0であるようなの集合を除いては(2.21)および
(2.22)が存在するということである。
今度はバーコフのエルゴード定理の紹介です。数学の用語としての「ほとんどいたるところで」という言葉は要注意です。これは「確率1で」ということです。ところで、「確率ゼロ」ということは「まったく可能性がない」ということとは異なります。0から1までの実数の中から1つランダムに数字を選んだ時にそれが有理数である確率はどれだけでしょうか? それが無理数である確率はどれだけでしょうか? 有理数も無理数も無限にありますが、無限の濃度(個数)が異なります。有理数の濃度(個数)は可算無限、無理数の濃度(個数)はです。つまり、無理数のほうが有理数よりも圧倒的に多いのです。よってランダムに数字を選んだ時にそれが有理数である確率はゼロです。しかし、これは、0から1までの実数の中に有理数が存在しない、ということを意味しません。
「ほとんどいたるところで」という概念の使い方は、たとえば
- 「[tex:0
という使い方になります。
「測度」という言葉は、長さや面積、体積、のような大きさを表す概念を抽象化したものですが、ここでは「確率」と同等と考えてよいでしょう。「ほとんどいたるところで」というのは「確率1で」ということと同じですし、「測度1で」ということと同じです。「測度0であるようなの集合を除いて」というのは先ほどの例でいう「有理数の集合を除いて」ということと同じような概念です。(ただし証明を示すことを省略しますが、濃度がの集合でも測度0の場合があるので、測度と集合の濃度とは別概念です。)
「サイバネティックス 第2章「群と統計力学」から(3)」に続きます。