第5章 うまくいかなかったこと の概要

第二次世界大戦から1990年までに使用されたアメリカの生産管理手段は、大まかに3つの学派に分類することができる。

  1. 科学的管理は、製造システムの合理的、演繹的、量的、モデリング指向の見方を特徴とする。科学的管理運動は、在庫管理、スケジューリング、予測、総体計画、などの多くの数量的方法を生み出した。
  2. 材料所要計画(MRP)は、生産の管理と統合のための中央コンピューター化された計画方法によって特徴づけられる。元々のMRPは、より多くの機能がシステムに統合されて、製造リソース計画(MRP II)へ、次に企業リソース計画(ERP)へと発展した。
  3. ジャスト・イン・タイムは、低いWIPと生産環境へのフロー指向的な関心によって特徴づけられる。JITはまた総合品質管理の推進力でもあった。

これらの各々は確実によいアイディアを提供しているが、包括的なソリューションを提供してはいない。この章では、その理由を調査する。

  1. 科学的管理、特に量的方法、は、しばしば非現実的なモデル仮定や、生産管理問題を分析的に追跡可能な下位問題に分解してしまうことによって、有用な指針をほとんど提供しないような主張に変質してしまった。
  2. MRPは、パーツのリリースをコントロールするために、無限キャパシティと固定リードタイムの方法を使用するため、その基本の中に根本的に欠陥があった。MRPの本来の洞察、つまり独立需要と従属需要を区別する、ということは、なお有効であり、そしてMRP IIで確立された計画階層もまた有効であり、MRPシステムにおける情報のメンテナンスと共有の機能は必須である。適切なスケジューリング・モジュールを設計し、計画階層にそれを効果的に適用するためには、製造システムの振る舞いを規定する諸原理との注意深い整合が必要になるだろう。
  3. JITはシステムではなく方法とスローガンの集合である。このために、1980年代の日本の成功をマニュアル本を読むような方法でまねることは不可能である。JITの創立者たちの創造的な洞察の数々を認識し、基礎付ける必要がある。JITがアメリカに紹介される際、そのような基礎付けのないままにスローガンを鵜呑みにするロマンティックJITが流行し、それがアメリカを惑わせた。しかし、効果的な製造管理システムを開発するためには、競合する諸目的間のバランスをとるためのフレームワークの確立が必要である。

これら全てのにおける教訓は、「容易なソリューションはない」ということである。結局、会社は独力で効果的な生産戦略を開発し、適切な方針と手順でそれを支えて、時間の経過とともにこれらを改善し続けなければならない。


第4章 JIT革命 の概要 に戻る
第6章 製造の科学 の概要 へ進む
Factory Physicsの概要へ