QNA読解:III.即座戻りの除去(1)

上位エントリー:Word Whitt: The Queueing Network Analyzerの構成
QNA読解:2.3 クラスとルート毎のインプット(5)」の続きです。即座戻りとは下図のノードiの赤線のようなルートのことを言います。

この経路はノードiから出てノードiに入ります。これが即座戻りです。この即座戻りはQNAの近似品質を下げるそうです。そのため、即座戻りのないネットワークに置き換えることがQNAの品質を高めるということです。この章では、即座戻りを除去し、どのようにノードの諸パラメータを調整して、除去した部分の効果を補うか、について説明しています。

この手続きは、元々Kuehn*1によって提案されていたが、通常、近似の質を上げている。

あるいはこうも述べられています。

 経験は、即座戻りの除去がしばしばよりよい近似をもたらすことを示している(Kuehn*2と、Whitt*3のセクションVとVIIを参照)。


この章では、まず、

  1. 即座戻りのルートを除去した場合、それを補足するためにノードの諸パラメータをどのように変更すべきかについて述べます。次に、
  2. 混雑尺度を計算する際に、それらの諸パラメータを用いた計算結果にさらに補正が必要であることを述べています。

まずは上記1について、そしてその中でも平均処理時間\tau_iをどのように変更すべきか、について述べます。
上の図でノードiを終わった客(=ジョブ)は、q_{ii}の確率でノードiに戻ってきます。この客はノードiで処理を受けたのち、またq_{ii}の確率でノードiに戻ってきます。この客はノードiから最終的に別のノードに移るまでに何回ノードiを通過するでしょうか? それは

  • 1+q_{ii}+q_{ii}^2+q_{ii}^3+.....=\frac{1}{1-q_{ii}}

となります。ノードiへの1回の訪問で客が費やす時間は\tau_iですから、この客は別のノードに移るまでに

  • \frac{\tau_i}{1-q_{ii}}

時間費やすことになります。よって、即座戻りルートを除去した場合、\tau_i\tau_i/(1-q_{ii})に置き換えないと、客がノードiで費やす時間が過少に見積られることになります。即座戻りを除去した後のノードの諸パラメータの補正値を「^」をつけて表わすことにします。すると

  • \hat\tau_i=\tau_i/(1-q_{ii})

と表わすことが出来ます。以上のことは原論文の以下のところに述べられています。

 QNAは個々の客に、他のノードからの到着時に、他のノードへ向かう前の客の総サービス時間を与えることにより即座戻りを除去する。・・・・・言い換えれば、他のどこかからノードiへの個々の訪問プラスすぐに戻る全ての後続の時間は1回の訪問と解釈される。埋め合わせのためにサービス時間は増やされる。


次に遷移確率q_{ij}はどのように補正されるでしょうか?
まず、即座戻りが除去されますから\hat{q}_{ii}=0になります。ではi{\ne}jの場合の\hat{q}_{ij}はどうなるでしょうか? これは一種の条件確率と解釈できます。つまり客がノードiに戻らなかったとした場合に、その客がノードjに行く確率になります。客がノードiに戻らない確率は1-q_{ii}なので、

  • \hat{q}_{ij}=q_{ij}/(1-q_{ii})

となります。このことは原論文では少し分かりにくい表現ですが以下の部分で述べられていると思います。

ノードiからノードiへの遷移は除去され、ノードjへの遷移の新しい確率は客がノードiから出発するとした時の古い条件確率になる。


最後にc_{si}^2の補正について述べます。しかし原論文にはどのようにしてこの補正を得たのか記述されておらずいきなり結論だけが提示されています。結論はこういうものです。

  • \hat{c}_{si}^2=q_{ii}+(1-q_{ii})c_{si}^2・・・・(A)

これは、このノードに到着する流れをq_{ii1-q_{ii}で確率的に分岐させて、そのうちq_{ii}のほうが即座戻りの流れであるので、残りの1-q_{ii}の流れについて2乗変動係数を求めたもののようです。

式(A)を導く方法については「流れの分岐」を参照して下さい。「流れの分岐」の式(9)においてc_Y^2=\hat{c}_{si}^2c_X^2=c_{si}^2p=1-q_{ii}と置くと上の式(A)を導くことが出来ます。


以上の結果を下にまとめます。

パラメータ\tau_ic_{si}^2q_{ij}は、q_{ii}>0の時、\hat\tau_i\hat_c_{si}^2\hat_q_{ij}に変更される。

		\hat\tau_i=\tau_i/(1-q_{ii})
		\hat{c}_{si}^2=q_{ii}+(1-q_{ii})c_{si}^2
		\hat{q}_{ii}=0
		\hat{q}_{ij}=q_{ij}/(1-q_{ii})、  j{\ne}i		(16)


QNA読解:III.即座戻りの除去(2)」に続きます。

*1:P.J. Kuehn,「分解による一般待ち行列ネットワークの近似解析」IEEE Trans. Commun., COM-27, No.1 (January 1979), pp.113-26.

*2:P.J. Kuehn,「分解による一般待ち行列ネットワークの近似解析」IEEE Trans. Commun., COM-27, No.1 (January 1979), pp.113-26.

*3:W. Whitt,「Queueing Network Analyzerのパフォーマンス」B.S.T.J., this issue.