流れの分岐

以下の問題を解くことにします。

ある出発する流れを考える。これをp:(1-p)の割合で流れAとBに分ける。ただし分け方は確率的である。つまり、出発するジョブはそれぞれ独立に確率pで流れAに属し、確率1-pで流れBに属する。元の流れのジョブの出発間隔時間を確率変数Xで表わす。Xの平均値をE(X)、分散をVar(X)、2乗変動係数c_X^2で表わす。流れAのジョブの出発間隔時間を確率変数Yで表わす。この時Yの平均値E(Y)、分散をVar(Y)、2乗変動係数c_Y^2E(X)Var(X)c_X^2の関係を求める。


あるジョブ(ジョブI)が流れAに属するとして、その次の流れAに属するジョブ(ジョブII)は、前のジョブから見て何番目であるかを考えて見ます。

  • すぐ後(1番目)である確率はp
  • 2番目である確率は(1-p)p
  • 3番目である確率は(1-p)^2p
  • ・・・・・・・
  • k番目である確率は(1-p)^{k-1}p

となります。このような分布を「パラメータp幾何分布」と言います。もし、ジョブIIがN番目のジョブであるとすると、ジョブIとジョブIIの間隔を表わす確率変数Yは、X_1X_2・・・・X_NXと同じ確率分布を持つ互いに独立な確率変数であるとして、

  • Y=X_1+X_2+....+X_N

と表わすことが出来ます。ここで、気をつけなければならないのはN自身が確率変数であるということです。つまり上に見たようにNはパラメータpの幾何分布を持つ確率変数です。


E(Y)Var(Y)c_Y^2を求めるために、「モーメント母関数による平均と2乗平均の求め方」で述べた方法を用います。まずYのモーメント母関数M_Y(z)を求めます。

  • M_Y(z)=E\left[\exp\{z(X_1+X_2+...X_N)\}\right]

この式のE()を、まずN=kに固定した場合の\exp\{z(X_1+X_2+...+X_k)\}の平均を最初にとり、次にそれをNについて平均する、と考える。N=kになる確率は上から(1-p)^{k-1}pなので、

  • M_Y(z)=\Bigsum_{k=1}^{\infty}(1-p)^{k-1}pE\left[\exp\{z(X_1+X_2+...+X_k)\}\right]・・・・(1)

X_1X_2・・・・X_kは互いに独立で確率変数Xと同じ分布を持つので

  • E\left[\exp\{z(X_1+X_2+...+X_k)\}\right]=E\left[\exp(zX_1)\exp(zX_2)...\exp(zX_k)\right]
    • =E\left[\exp(zX_1)\right]E\left[\exp(zX_2)\right]...E\left[\exp(zX_k)\right]=E\left[\exp(zX)\right]^k=\left\{M_X(z)\right\}^k

よって(1)より

  • M_Y(z)=\Bigsum_{k=1}^{\infty}(1-p)^{k-1}p\left\{M_X(z)\right\}^k・・・・(2)

(2)の両辺をz微分して

  • \frac{dM_Y(z)}{dz}=\Bigsum_{k=1}^{\infty}(1-p)^{k-1}pk\left\{M_X(z)\right\}^{k-1}\frac{dM_X(z)}{dz}・・・・(3)

(3)でz=0と置くと

  • \left.\frac{dM_Y(z)}{dz}\right|_{z=0}=\Bigsum_{k=1}^{\infty}(1-p)^{k-1}pk\left\{M_X(0)\right\}^{k-1}\left.\frac{dM_X(z)}{dz}\right|_{z=0}

ここで「モーメント母関数による平均と2乗平均の求め方」の式(3)と(5)を用いると

  • \left.\frac{dM_Y(z)}{dz}\right|_{z=0}=\Bigsum_{k=1}^{\infty}(1-p)^{k-1}pkE(X)=pE(X)\Bigsum_{k=1}^{\infty}(1-p)^{k-1}・・・・(4)

ここで「補足」の式(2)を用いると式(4)は

  • \left.\frac{dM_Y(z)}{dz}\right|_{z=0}=pE(X)\Bigsum_{k=1}^{\infty}(1-p)^{k-1}=pE(X)\frac{1}{p^2}=\frac{E(X)}{p}

よって

  • E(Y)=\frac{E(X)}{p}・・・・(5)

ジョブIIはジョブIの平均\frac{1}{p}番目あとになることを考えると、この結果は直感的に理解出来ます。


今度は、E(Y^2)を求めます。
(3)の両辺をz微分して

  • \frac{d^2M_Y(z)}{dz^2}=\Bigsum_{k=1}^{\infty}(1-p)^{k-1}pk(k-1)\left\{M_X(z)\right\}^{k-2}\left\{\frac{dM_X(z)}{dz}\right\}^2
  • +\Bigsum_{k=1}^{\infty}(1-p)^{k-1}pk\left\{M_X(z)\right\}^{k-1}\frac{d^2M_X(z)}{dz^2}・・・・(6)

(6)でz=0と置くと

  • \left.\frac{d^2M_Y(z)}{dz^2}\right|_{z=0}=\Bigsum_{k=1}^{\infty}(1-p)^{k-1}pk(k-1)\{E(X)\}^2+\Bigsum_{k=1}^{\infty}(1-p)^{k-1}pkE(X^2)

よって

  • E(Y^2)=\Bigsum_{k=1}^{\infty}(1-p)^{k-1}pk(k-1)\{E(X)\}^2+\Bigsum_{k=1}^{\infty}(1-p)^{k-1}pkE(X^2)
  • =\Bigsum_{k=2}^{\infty}(1-p)^{k-1}pk(k-1)\{E(X)\}^2+\Bigsum_{k=1}^{\infty}(1-p)^{k-1}pkE(X^2)
  • =p(1-p)\{E(X)\}^2\Bigsum_{k=2}^{\infty}k(k-1)(1-p)^{k-2}+pE(X^2)\Bigsum_{k=1}^{\infty}k(1-p)^{k-1}

ここで「補足」の式(2)(3)を用いると

  • E(Y^2)=p(1-p)\{E(X)\}^2\frac{2}{p^3}+pE(X^2)\frac{1}{p^2}=\{E(X)\}^2\frac{2(1-p)}{p^2}+E(X^2)\frac{1}{p}

よって

  • E(Y^2)=\{E(X)\}^2\frac{2(1-p)}{p^2}+E(X^2)\frac{1}{p}・・・・(7)

これでE(Y^2)を求めることが出来ました。
次に分散Var(Y)を求めます。

  • Var(Y)=E(Y^2)-\{E(Y)\}^2=\{E(X)\}^2\frac{2(1-p)}{p^2}+E(X^2)\frac{1}{p}-\{E(X)\}^2\frac{1}{p^2}
  • =\frac{1-2p}{p^2}\{E(X)\}^2+\frac{1}E(X^2)=\frac{1}{p^2}\left[(1-2p)\{E(X)\}^2+pE(X^2)\right]
  • =\frac{1}{p^2}\left[(1-p)\{E(X)\}^2+p(E(X^2)-\{E(X)\}^2)\right]=\frac{1}{p^2}\left[(1-p)\{E(X)\}^2+pVar(X)\right]

よって

  • Var(Y)=\frac{1}{p^2}\left[(1-p)\{E(X)\}^2+pVar(X)\right]・・・・(8)

これでVar(Y)を求めることが出来ました。
最後にc_Y^2を求めます。

  • c_Y^2=\frac{Var(Y)}{\{E(Y)\}^2}=\frac{p^2}{\{E(X)\}^2}Var(Y)

ここで(8)を代入して

  • c_Y^2=1-p+p\frac{Var(X)}{\{E(X)\}^2}=1-p+pc_X^2

よって

  • c_Y^2=pc_X^2+1-p・・・・(9)

これでc_Y^2を求めることが出来ました。


この結果を持って「QNA読解:III.即座戻りの除去(1)」に戻ってみて下さい。