プルターク英雄伝

プルターク(あるいはプルタルコス)の英雄伝(あるいは対比列伝)は、古代ローマギリシア人哲学爺プルタルコスが自分から見て古人であるギリシアとローマの政治的あるいは軍事的な著名人を対比させて描いた伝記です。今私が「政治的あるいは軍事的な著名人」と書いて「英雄」と書かなかったのは、取り上げた人々の中にはどうも感心しかねる人々も混じっているからです(ローマのクラッススなど)。
プルターク英雄伝の和訳は、時たま、選訳を見ることはあるのですが、全訳はどうも岩波文庫に入っている(けどまず本屋には置いていない)河野与一氏の訳(1954年)しかないようです。これは全12巻で、私が現在持っているのは1,2,3,5,6,7,12の各巻です。4巻は海外出張に持っていったおりに失くしてしまいました。旧漢字旧かなで読みづらい本です。まだ読んでいない部分も多いです。しかし、私は最近、この本の内容を再認識しました。というのは、ちょっと気まぐれに「ティトゥス・フラーミニーヌス伝」をWordに書き写し始めたら、内容の面白さと貴重さに気づきました。書き写すのですから、結構時間がかかるのですが、少しずつ進めていけたらと思います。ちょっと書き写した部分を紹介します。(原文は旧漢字旧かなです。)


ティトゥスは自分よりも前の将軍たちがスルピキウス*1にしろ、プーブリウス*2にしろ季節が過ぎてからマケドニアに侵入してゆっくりと戦争を始め、フィリッポスに対して局所的な戦闘や小競り合いを行っただけで、行軍と糧食の徴発に力を尽くしてしまったのを見て、それらの人々が国内で一年間名誉の待遇を受け政務にたずさわった後戦争を行うというようにすべきでなく、自分の任期を戦争に捧げることを得意として、国内にいれば受けられるさまざまの名誉や首席の地位を捨てて、自分の弟のルーキウス*3元老院に頼んで艦隊の指揮者とし、スキーピオーの配下にあってヒスパニアではハスドルバル*4、リビュアではハンニバル自身を戦いで破った兵士たちの中でもなお血気盛んな壮年を三千人率いてこれを主力部隊とし、無事にエーペイロス*5に渡った。そこにはプーブリウスが軍勢と共に軍営を張って、すでに久しくアプソス河*6の付近の峠道およびステナ*7を守っているフィリッポスと対峙しながら、敵の陣地が堅固なために何一つ行動を起こそうとせずにいるのを見て指揮権を取り上げ、プーブリスを帰国させてから自分でそのあたりの地形を検分した。そのあたりはテンペー*8に劣らず堅固ではあったが、あすこのような樹の美しさも森の青さも快い遊び場や草原もなく、高い急な山々が両側から一つの非常に長く深い窪地に迫った間を貫いて流れるアプソス河は、形も早さもペーネイオスそのままで、麓全体をほとんど水に浸し、ただ流れに沿って切り立った険しい狭い小道しか残さず、たださえ軍隊が容易に通れないその道は、守るものがあれば全く進めない所となっている。

注がものすごく充実しているのに気づきました。旧漢字旧かなで読みづらいのが残念です。


というわけで、今日はプルターク英雄伝の攻略法を検討したいな、と思ってます。
取り上げられている人物を以下に示します。左側がギリシア人、右側がローマ人です。巻数は岩波文庫での巻数です。

  • テーセウス----ロームルス
  • リュクールゴス----ヌマ
      • 以上1巻
  • ソローン----プーブリコラ
  • テミストクレース----カミルス
      • 以上2巻
  • ペリクレース----ファビウス マークシムス
  • アルキピアデース----マルキウス コリオラーヌス
      • 以上3巻
  • ティーモレオーン----アエミリウス パウル
  • ペロピダース----マルケルス
      • 以上4巻
  • アリステイデース----大カトー
  • フィロポイメーン----ティトゥス フラーミニーヌス
      • 以上5巻
  • ピュロス----マリウス
  • リューサンドロス----スラ
      • 以上6巻
  • キモーン----ルークルス
  • ニーキアース----クラッスス
      • 以上7巻
  • エウメネース----セルトーリウス
  • アゲーシラーオス----ポンペーイウス
      • 以上8巻
  • アレクサンドロス----カエサル
  • フォーキオーン----小カトー
      • 以上9巻
  • アーギスとクレオメネース----ティベリウスおよびガーユス グラックス
  • デーモステネース----キケロ
      • 以上10巻
  • デーメートリオス----アントーニウス
  • ディオーン----ブルートゥス
      • 以上11巻

あと対比のなされていない人物が何人かあります。

  • アルタクセルクセース
  • アラートス
  • ガルバ
  • オトー
      • 以上12巻


なじみのない名前が多いと思います。それでも塩野七生の「ローマ人の物語」のおかげで以前よりは名前と事跡の対応がつきやすくなってきました。今、見てみるとローマ側は、量の多少はあるにせよ全員、「ローマ人の物語」で言及されていますね。ギリシア側はどうでしょう? 私の知識の多い少ないで分類すると以下のようになります。

  • 少し知っている
    • フィロポイメーン
    • ピュロス
    • ニーキアース
    • アーギスとクレオメネース
      • 英雄伝で何回か読んだんだが、頭に事跡が入らない。ヘレニズム時代のスパルタ王。政治改革を進めて失敗し殺された。
    • ディオーン
      • シュラクサイの政治家にして哲学者プラトンの弟子。祖国を圧制から救おうとして失敗し殺された。
  • あまり知らない
    • ティーモレオーン
    • ペロピダース
    • リューサンドロス
    • エウメネース
    • アゲーシラーオス
    • フォーキオーン
    • デーメートリオス
    • アラートス
      • 前記のフィロポイメーンの少し前の政治家らしい。


一度、時代を調べて時代順に並べてみるとよさそうです。

*1:プーブリウス スルピキウス ガルバ マクシムス 前211年および200年のコーンスル

*2:プーブリウス ウィルリウス タップルス 前199年のコーンスル

*3:前192年のコーンスル

*4:ハスドルバル バルカ、ハンニバルの弟

*5:ギリシャ本土の北西部

*6:エーペイロスよりも北のイルリュリアーの南を一旦北西に次いで南西に流れてイオニア海に注ぐ河、リーウィウス第32巻5節にはその南を北西に流れるアオーウス河としてある

*7:ツィーグレルはリーウィウスに従って地名に読み、他の版は普通名詞にして「隘路」と見ている

*8:テッサリアーの北東部、オリュンポス山とオッサ山との間を北東に流れるペーネイオス河に沿った狭い地帯