QNA読解:III.即座戻りの除去(2)
上位エントリー:Word Whitt: The Queueing Network Analyzerの構成
「QNA読解:III.即座戻りの除去(1)」の続きです。このように即座戻りによる繰り返しの処理を、戻りのない1回の処理に置き換えることは待ち行列の長さの平均や標準偏差にどのような影響を与えるでしょうか?
即座戻りを除去しない場合、処理を終えた客が即座戻りをするとすると、その客は待ち行列の最後尾に並びます。ところでこれを、待ち行列の先頭に並ぶように規則を変えても、処理時間が個別に独立に決まるのであれば、待ち行列の長さの平均や標準偏差は変わらないことが直感的に分かります。
ところが即座戻りの客が、処理終了後待ち行列の先頭に並ぶことと、戻りなしで1回の処理を行い、その代わり処理時間を倍することは同等です。よって、即座戻りによる繰り返しの処理を、戻りのない1回の処理に置き換えることは待ち行列の長さの平均や標準偏差に影響を与えません。よってこの即座戻りの除去によって出来たモデルから待ち行列の長さの平均や標準偏差を求めることが出来ます。しかし、その他の量については補正が必要です。
例えばノードでの待ち時間の平均値はどうでしょう? 即座戻りの除去によってノードへの訪問回数は平均回であったものが1回に減っているので、リトルの法則から考えて、元の訪問回数で考えるならば待ち時間の平均値は、得られた待ち時間の平均値を倍すべきことが分かります。即座戻りを除去したモデルから得た待ち時間の平均値を、それを補正した本来求めたい待ち時間の平均値をで表わすと
となります。
では待ち時間の分散はどうなるでしょうか? この論文はそれにも解答を与えていますが、残念ながら私には理解出来ません。まず
- ・・・・・(ア)
としています。ここに登場するとについては
としていますが、これは「QNA読解:III.即座戻りの除去(1)」の式(16)の一部
を逆に解いたものになっています。また、、の意味が、即座戻り除去によって得たモデルから得た値を本来のモデルに合わせて補正したものであるという文中の意味を考えれば、
ではないかと思うのです。
次にについては、意味としてはの分散、という意味ですが、が何を意味するのかについて論文は
もしノードがある客によって回訪問を受けるのであれば、ノードでの総滞在時間、例えばとしよう、はとして(高負荷で)近似的に分布する。
と述べています。つまりは回訪問するある客のノードでの総滞在時間ということです。式(ア)の説明は
の分散を待ち時間要素とサービス時間要素に分け、ノードへの訪問の期待数で割ることによっての・・・式を得る。
となっています。そうすると、ノードへの訪問の期待数を式(ア)の両辺にかけると
- ・・・・・(イ)
この式の左辺は総滞在時間の分散であり、右辺ではそれが待ち時間の分散と処理時間の分散の和として表わされていることになります。は補正された待ち時間の分散を表わしますが、これは1訪問あたりの分散なので平均訪問回数をかけているのでしょう。
一方は処理時間の分散になります。これも1訪問あたりの分散なので平均訪問回数をかけています。やはり
は
と読み直すべきだと思います。
- 2つの独立な確率変数を、とすると
- になることの証明は「独立な確率変数の和の分散」を参照して下さい。
ところで待ち時間と処理時間(この論文では処理時間を表わす確率変数は登場せず、その平均がで、変動係数がで表わされています)は本当に独立だろうか、という疑問が私にはあります。処理時間が長ければ待ち時間も長くなるのではないでしょうか? 今のところ、これは疑問のままです。
「QNA読解:III.即座戻りの除去(3)」に続きます。