QNA読解:III.即座戻りの除去(3)

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QNA読解:III.即座戻りの除去(2)」の続きです。
次に(ア)の右辺に登場するVar(T_i')を求める式を検討します。その式は

  • Var(T_i')=c^2(T_i')(EW_i+\tau_i)^2・・・・・(ウ)

です。この式の右辺に登場するc^2(T_i')は、T_i'の2乗変動係数です。この式の解釈は簡単で、分散は2乗変動係数かける平均値の2乗ということです。しかしここにも私は疑問があります。EW_iは即座戻りを除去したモデルでの待ち時間の平均値ですからT_i'と同じく(1-q_{ii})^{-1}回の訪問における値として解釈できますが、\tau_iは1回の訪問における処理時間の平均値です。私は

  • Var(T_i')=c^2(T_i')(EW_i+\hat\tau_i)^2・・・・・(エ)

と書くべきだと思います。


次に(ウ)の右辺に登場するc^2(T_i')を求める式です。

  • c^2(T_i')=c^2(\bar{T}_i')(1+q_{ii})+q_{ii}・・・・・(オ)

\bar{T}_i'は何でしょう? 論文には

\bar{T}_i'は(17)における、1訪問あたりの滞在時間である。

とありますが、「(17)における」というのは前後関係から判断すると、「元のモデルにおける」ということのようです。よって\bar{T}_i'は元のモデルにおける1回の訪問あたりの滞在時間です。ところで式(オ)は「QNA読解:III.即座戻りの除去(1)」の式(16)の一部である

  • \hat{c}_{si}^2=q_{ii}+(1-q_{ii})c_{si}^2

と同じ形をしています。ということは式(オ)は、1回の訪問あたりの滞在時間(=待ち時間+処理時間)の2乗変動係数から(1-q_{ii})^{-1}回の訪問の総滞在時間の2乗変動係数を求めたものと解釈できます。


さて、この式の説明には、謎めいた以下の記述があります。これを解釈してみましょう。

(我々は(16)から直接得られるT_iの記述を用いず、そして\bar{T}_i\bar{T}_i'とは異なるだろうから、T_i\bar{T}_iの代わりにT_i'\bar{T}_i'を用いる。)

「(16)から直接得られる」というのは即座戻り除去後モデルから直接得られる、ということです。T_i'は元のモデルにおけるX_i回訪問するある客のノードiでの総滞在時間(確率変数)でした。\bar{T}_i'は元のモデルにおける1回の訪問あたりの滞在時間(確率変数)でした。T_iは即座戻り除去後のモデルから得られる(1回の訪問あたりの)滞在時間(確率変数)ということです。

  • ここでの1回の訪問というのは元のモデルでの(1-q_{ii})^{-1}回の訪問に対応することに注意。

\bar{T}_iというのがよく分かりません。T_i1-q_{ii}をかけたものでしょうか? そう言えば、以下の記述もよく理解できていません。

高負荷において、ノードへの待ち行列長の変化は客のネットワーク内での滞在の間、無視できる。よってもしノードiがある客によってX_i回訪問を受けるのであれば、ノードiでの総滞在時間、例えばT_i'としよう、はX_i\bar{T}_i'として(高負荷で)近似的に分布する。

なぜ「よって」なのか理解出来ないのです。


次に式(オ)の右辺に登場するc^2(\bar{T}_i')を求める式に進みます。

  • c^2(\bar{T}_i')=(Var({\bar}W_i')+{\bar}c_{si}^2\tau_i^2)(E\bar{W}_i+\bar\tau_i)^{-2}・・・・・(カ)

です。これは2乗変動係数は分散、割る、平均の2乗、の形の式になっています。そして分散は、待ち時間の分散と処理時間の分散の和の形に、平均は待ち時間の平均と処理時間の平均の和の形になっています。ここで私はビックリしてしまいます。元々、私たちは待ち時間の分散を求めようとしているのです。それがまたここで待ち時間の分散を持ち出してきては循環論法になってしまいます。
しかしよく見ると、今度の待ち時間の分散はVar({\bar}W_i')となっていて、私たちが求めようとしているVar(\bar{W}_i)とは異なる記号になっています。では、どう違うのでしょう。論文には

変数\bar{W'}_iは、\bar{W}_iの予備近似である。

と書いてあります。なぜ、予備近似が必要なのか、そして予備近似が論文によれば

  • Var(\bar{W}_i')=EN_i\bar{c}_{si}^2\bar\tau_i^2+c^2(N_i)(EN_i)^2\bar\tau_i^2

で求められるのですが、それがなぜか、そして(ア)から(カ)までの計算を行うとなぜもっとよい近似(すなわち\bar{W}_i)になるのか、よく理解できません。
論文には

\bar{W}_iの2次モーメント特性を含む(17)の後ろの5つの式は変形されたシステムのN_iの結果とReiman*1 *2による待ち行列のネットワークの高負荷極限理論に基づいている。

と書かれてるので「高負荷極限理論」を理解しないと、ちゃんと理解出来ないのかもしれません。


これで「III.即座戻りの除去」の読解を終りますが、最後に、生産システムへの応用から見た、このセクションへの私の評価を記します。生産システムではまず即座戻りは発生しないので、ここでの議論は生産システムへの応用の観点からは無視してよいと思います。


QNA読解:IV.内部フロー諸パラメータ」に続きます。

*1:M. I. Reiman, 「高流量での開放型待ち行列ネットワーク」unpublished work, 1981.

*2:M. I. Reiman, 「ジャクソン・ネットワークにおけるSojourn時間のための高流量拡散近似」Applied Probability and Computer Science--The Interface, Volume 2, R. L. Disney and T. J. Ott(eds.), Boston: Birkhauser, 1982, pp.409-21.