ブッダ最後の旅

インドのマガタ国王アジャータサットゥはある時ヴァッジ族の征服を考えます。そこで彼は大臣でバラモンであるヴァッサカーラに、このことについてブッダに意見を尋ねるように命じます。

さあ、バラモンよ、尊師のいますところへ行け。そこへ行って、尊師の両足に頭をつけて礼せよ。そうしてわがことばとして、尊師が健勝であられ、障りなく、軽快で気力あり、ご機嫌がよいかどうかを問え。そうして、このように言え、「尊い方よ。マガタ国王アジャータサットゥはヴァッジ族を征服しようとしています。かれはこのように申しました。『このヴァッジ族はこのように繁栄し、このように勢力があるけれども、わたしは、かれらを征服しよう。ヴァッジ族を根絶しよう。ヴァッジ族を滅ぼそう。ヴァッジ族を無理にでも破滅に陥れよう』と。そうして尊師が断定せられたとおりに、よくそれをおぼえて、わたしに告げよ。けだし完全な人(如来)は虚言を語られないからである。

その頃、ブッダは「鷲の峰」という山に弟子たちとともにいました。そこへヴァッサカーラは赴き、ブッダに先ほどのアジャータサットゥの問いを伝えます。ブッダはそれに対してこう答えます。

バラモンよ。かつて或るときわたくしが、ヴェーサーリーのサーランダダ霊域に住んでいた。そこで、わたくしはヴァッジ人に衰亡を来たさないための法を説いた。この七つがヴァッジ人の間に存し、またヴァッジ人がこの七つをまもっているのが見られる限りは、ヴァッジ人に繁栄が期待せられ、衰亡は無いであろう。


この「ブッダ最後の旅」という本、つまりは「大パリニッバーナ経」の現代日本語訳は、このような情景から始まります。このあとブッダは旅に出ます。もう、本当にあちらこちらと出かけます。

そこで尊師は王舎城に、こころゆくまでとどまって、それから若き人アーナンダに告げた。
--「さあ、アーナンダよ。われらはアンバラッティカー(の園)に行こう」と。
「かしこまりました」と、若き人アーナンダは尊師に答えた。

--「さあ、アーナンダよ。われらはナーランダーに行こう」と。
「かしこまりました」と、若き人アーナンダは尊師に答えた。

さて尊師はナーランダーに心ゆくまでとどまって、それから若き人アーナンダに告げて言った。----
「さあ、アーナンダよ。パータリ村に行こう」と。
「かしこまりました」と、若き人アーナンダは尊師に答えた。

そこで尊師は、パータリ村の在俗信者たちに、夜ふけるまで「法に関する講話」を説いて教え、励まし、喜ばせて、別れを告げた。

・・・・・

さて尊師が雨期の定住に入られたとき、恐ろしい病が生じ、死ぬほどの激痛が起った。しかし尊師は、心に念じて、よく気をつけて、悩まされることなく、苦痛を耐え忍んだ。

わが齢は熟した。
わが余命はいくばくもない。
汝らを捨てて、わたしは行くであろう。
わたしは自己に帰依することをなしとげた。
汝ら修行僧たちは、怠ることなく、よく気をつけて、
よく戒しめをたもて。

そこで尊師は朝早く、内衣を着け、衣と鉢とをたずさえて、ヴェーサーリー市に托鉢のために入って行った。ヴェーサーリー市において托鉢をして、托鉢から帰って来て、食事を終えて、象が眺めるように(身をひるがえして)ヴェーサーリー市を眺めて若き人アーナンダに言った、
「アーナンダよ。これは修行完成者(=わたし)がヴェーサーリーを見る最後の眺めとなるであろう。さあ、アーナンダよ。バンダ村へ行こう」と。
「かしこまりました」と、若き人アーナンダは尊師に答えた。

・・・・・

さて、尊師は若き人アーナンダに告げた。「さあ、アーナンダよ。ヒラニヤヴァティー河の彼岸にあるクシナーラーのマッラ族のウパヴァッタナに赴こう」と。「かしこまりました」と、若き人アーナンダは尊師に答えた。そこで尊師は多くの修行僧たちとともにヒラニヤヴァティー河の彼岸にあるクシナーラーのマッラ族のウパヴァッタナに赴いた。そこに赴いて、アーナンダに告げて言った。----
「さあ、アーナンダよ。わたしのために、二本並んだサーラ樹(沙羅双樹)の間に、頭を北に向けて床を用意してくれ。アーナンダよ。わたしは疲れた。横になりたい」と。

そこで尊師は修行僧たちに告げた。----
「さあ、修行僧たちよ。お前たちに告げよう、『もろもろの事象は過ぎ去るものである。怠ることなく修行を完成なさい』と。」
 これが修行をつづけて来た者の最後のことばであった。

・・・・・


旅の途中のクシナーラーでブッダは亡くなったのでした。