QNA読解:6.2 集約客の経験
上位エントリー:Word Whitt: The Queueing Network Analyzerの構成
「QNA読解:6.1 システム混雑尺度」の続きです。
我々が、個々の客が経験する混雑に向かう時、非常に異なる2つの方法が存在する。最初の方法はセクション2.1の標準インプットを持つモデル仮定を厳守し、ルーティング行列を独立な確率(マルコフ的ルーティング)と解釈することに基づく。これは、任意の客がノードのサービスを完了する時は毎回、その客はネットワークの現在の状態と履歴に独立に確率でノードに進むことを意味している。
この「6.2 集約客の経験」の立場は、上記の立場です。これとは反対に「6.3 特定の客の経験」では客(=ジョブ)は特定のルートに沿って移動するものと考えます。そしてこの両者について、客のネットワーク滞在時間の平均や分散を求めます。私が興味を持つ生産工場のモデルとしてより適切なのは「6.3 特定の客の経験」の考え方であり、このセクションの考え方にはあまり興味がありません。それでも内容の読解を試みます。
もし集約ビューが望まれると、客の経験はKemenyとSnell*1の第III章にあるような吸収マルコフ・チェーンの基本理論を用いて記述出来る。我々は外部ノードを、全ての客がネットワークを離れる時に向かう単一の吸収状態であると見なすことが出来るし、あるいは、異なるノードやノードの部分集合からのネットワーク出発を区別するために、我々はより多くの吸収状態を持つことも出来る。
ここまでは理解できます。吸収状態というのは、一旦、その状態に遷移するともうそこから出ていかないような状態のことです。その次の
この解釈では、ルーティング行列は吸収マルコフ・チェーンと関係する遷移サブチェーンであり、の場合の(19)における逆行列は吸収チェーンの「基礎行列」である(KemenyとSnell*2のp.45を参照)。トラフィック・レート方程式を解くことは、この基礎行列を解くことに等しい。
の箇所で「基礎行列(fundamental matrix)」という言葉が私には分かりません。式(19)は、「QNA読解:4.1 トラフィック・レート方程式」で登場した「トラフィック・レート方程式」
- ・・・・(18)
を行列記法で書いたもので
- ・・・・(19)
です。ただしは外部到着レート・ベクトルであり、はルーティング行列であり、は客の生成組合せを表しかつの時である対角行列です。客の生成がない場合、となりとなります。(18)を素直に行列記法で書くと
となり、これを変形すると
となり(19)になります。
基礎行列から(外部到着過程において)任意の状態から始まって任意の状態を訪れる回数のモーメントを計算することは容易である。例えば、は単にの番目の要素である。
「例えば・・・・」以降は理解できるのですが、その他のモーメント、たとえばをどのようにして求めればよいのか、私には分かりません。行列の勉強をする必要がありそうです。
さて、式(18)または(19)を解くことによってが求まります。ネットワークの外からネットワークに到着する任意の客がノードに訪れる期待回数は、
- ・・・・(77)
となります。ここでは「QNA読解:6.1 システム混雑尺度」で登場した
- ・・・・(72)
です。よって、任意の客がネットワーク内にいる間、ノードで費やす時間の平均は
- ・・・・(78)
となります。よって任意の客の期待総滞在時間は、
- ・・・・(79)
となります。ここまでは理解できました。
論文での次の目標は、任意の客の総滞在時間の分散を求めることです。その前段階としてノードでの滞在時間の分散を求めています。論文ではいきなり
- ・・・・(80)
と結論を出しています。しかし、これが私には分かりません。私の導出では以下のようになります。ノードでの処理時間を表す確率変数をで表わせば、
- ・・・・(ア)
となります。この分散を求めると
- ・・・・(イ)
ここでとが独立であるとすると
ここでとが独立なので
よって(イ)(ウ)から
- ・・・・(エ)
となって式(80)とは微妙に異なってしまうのです。
- (その後、Pawnさんから、「(エ)のほうが正しい」とコメントを頂きました。)
論文のここより以降は私には難しくて理解出来ません。
「QNA読解:6.3 特定の客の経験」に続きます。