日本書紀(上)(下)全現代語訳

この本の(下)の最後のほうに年表があります。この年表は「日本書紀の記述に基づいた」年表です。たとえ、それが歴史的事実として証明出来なくても「前667年に神武天皇即位」と書かれています。日本書紀の古代の天皇の年代は信用出来ない、というのは定説で知っていたのですが、ためしに年表から各天皇の即位年のグラフを作ってみました。

すると一目瞭然、紀元400年の前後で傾きが全然異なります。ここから、少なくとも仁徳天皇までは在位年数を水増ししていることが推測されます。最近の歴史学では、5世紀についてさえ天皇家系図を疑う傾向にあるようなので、履中天皇以後の年代が信用できるかどうかは答えるのに難しい問題になりそうです。
私は、このようなグラフを他の本でも見たことがありませんし、今回初めて作って自分で目にしたのですが、これを見て、履中天皇からは年代を信じてもいいかな、と思い始めています。(でも、允恭天皇在位42年は突出している、と判断するかどうかが微妙なところ) 古代史はいろいろ楽しめます。


さて、この本は日本書紀を全部現代語に訳したもので、なかなか便利なものです。その代わり注釈が少なくなっているので、記述の内容をもっと突っ込んで調べたい時にはちょっと不便です。もっと調べたい時には岩波文庫のほうの日本書紀をあたるのがよさそうです。
「あとがき」に書かれている著者の意図を紹介します。

 時代による評価の移り変わりはあっても、古くから、古代史研究に欠かすことのできない文献のひとつとされてきた「日本書紀」を、一部の専門家だけのものでなく、大衆のものにできないかというのが、長年にわたる筆者の思いであった。肩の凝らない、かといって通俗に走らない、そんな現代語訳「日本書紀」をという願いから、この学術文庫版「日本書紀」が生まれた。
 しかしながら、まだこれは文献としての「日本書記」を利用しやすいものにできたという段階にすぎない。言ってみれば、足許の整理をお手伝いしただけである。この本との出会いをきっかけとして、さらに古代史への興味と理解を深めていただくことに役立てば、と願っている。


日本書紀」宇治谷 孟訳の「あとがき」より

良書であると思います。ただ、読んでおもしろいか、というと、「文献としての『日本書記』を利用しやすいものにできたという段階にすぎない」のであって、これを面白く読むにはちょっと工夫が必要でしょう。